福島県いわき市にある「いわきワイナリー」は、福島県の浜通り南部に位置するいわき市の、見晴らしのよい丘の上にあるワイナリーだ。醸造所に近接したスタイリッシュな「いわきワイナリーガーデンテラス&ショップ」からは、丁寧に管理された自社畑と、自然豊かな阿武隈(あぶくま)山地を見渡すことができる。
いわきワイナリーは、なぜいわき市でぶどう栽培を始めたのか。また、どのような想いを込めてワイン造りをおこなっているのだろうか。
今回は、理事を務める四家(しけ)麻未さんにお話を伺った。ワイナリー設立のきっかけから今日までの歩みと、ぶどう栽培・ワイン醸造におけるこだわりについて、さまざまな角度から詳しく見ていこう。
さらに、いわきワイナリーが目指す未来の姿についても聞くことができたので、あわせて紹介していきたい。
『いわきワイナリーの歴史とぶどう栽培』
最初に見ていくのは、いわきワイナリー設立までの経緯について。いわきワイナリーを運営しているのは、ハンディキャップを背負った人々が自立した生活を送るための支援活動をしている「特定非営利活動法人 みどりの杜福祉会いわきワイナリー」だ。
「特定非営利活動法人 みどりの杜福祉会いわきワイナリー」の理事長である今野さんは、農業を通して障がいを抱える人々の生産活動の場を提供したいと考えた。ハンディキャップを背負った人は、社会との関わりが少なくなってしまったり、生産活動をする機会に恵まれなかったりしがちである。
彼らが生き生きと働く環境を作るには、畑に出て体を動かせる「農業」を取り入れることが有効だと考えたのだ。栽培する作物としてぶどうを選べば、加工品としてワインを造ることができる。生産の喜びを分かち合えるだけでなく、農産物に付加価値を与えることにもつながる点に注目したのだ。

▶︎2008年にぶどう栽培を開始
いわきワイナリーがぶどう栽培を始めたのは、2008年頃のこと。最初に整備したのは、いわき市に隣接する自治体に作った「広野農園」だった。試験的に栽培していたぶどうは順調に生育して、無事に収穫を迎えた。もともとぶどうの産地ではなかった福島県浜通りの環境でも、ワイン用ぶどうの栽培ができると確信した。そこで、2010年にはいわき市内に新たな圃場「好間田代農園」を開墾したのだ。
ぶどう栽培は順調に進んでいたが、突然の大災害に見舞われた。2011年3月11日に東日本大震災が発生したのである。原発事故による立ち入り制限によって、圃場周辺への立ち入りが一時できなくなったため、結果的に広野農園は閉園せざるを得なかった。そこで、新たに「大久農園」を造成した。続いて「好間半貫沢農園」「榊小屋農園」が増え、2025年現在いわきワイナリーの圃場はいわき市内に合計4か所ある。
「2015年3月には、好間田代農園の隣に醸造所をオープンし、自社醸造も開始しました。ハンディキャップを背負った人達の自立生活を支援するため、安定したぶどう栽培とワイン醸造を目指して日々取り組んでいます」。

▶︎多数の品種を栽培する
現在いわきワイナリーで栽培している主な品種と、これらの品種を選んだ理由を見ていこう。
- シャルドネ
- メルロー
- マスカット・ベーリーA
- ピノ・ノワール
- ヤマソーヴィニヨン
- カベルネ・ソーヴィニヨン
- デラウェア
- 富士の夢
- 甲州
- シラー
- カベルネ・フラン
- プティ・ヴェルド
- ゲビュルツトラミネール
- ピノ・グリ
「一番最初に植栽したのは、カベルネ・ソーヴィニヨンとマスカット・ベーリーAでした。カベルネ・ソーヴィニヨンは、世界各地で栽培されているメジャーな赤ワイン用品種ということで選びました。また、マスカット・ベーリーAは、日本の固有品種を代表する品種なので栽培を決めました」。
4か所ある圃場のうち、粘土質の好間田代農園に植えたのは、メルローとシャルドネ、マスカット・ベーリーAだ。土質を考慮して選んだ品種である。さまざまな品種を育てるいわきワイナリーでは、栽培に取り組む中で、いわきに合う品種が見つかったのだろうか?
「いわきで特に育てやすいのは、やはり日本の固有品種の流れを引くぶどうですね。ヤマソーヴィニヨンやマスカット・ベーリーA、富士の夢は病気に強く、栽培管理がしやすいと感じています。収量や品質から見ても、いわきの土地に合っていると思いますよ」。
しかし、それ以外の品種も土地に合わないわけではない。品種ごとというよりも、ヴィンテージによって、それぞれの品種の生育の状況は大きく変わる。年によって天候は異なるため、気温や雨の影響などによって収穫時期が前後することもある。そのため、出来がよい品種は一律ではなく、年ごとに変化するのだ。
ぶどうという「生き物」を相手にする以上、刻々と変わる状況に対して、臨機応変な判断と対応が必要になる。いわきワイナリーはぶどうに真正面から向き合って、心を込めた栽培管理をおこなっているのだ。

▶︎ぶどう栽培におけるこだわり
4つの自社畑で栽培しているぶどうは、一部の棚仕立てを除き、ほとんどが垣根仕立てだ。太平洋沿岸ならではの温暖な気候に恵まれているいわき市は日照時間が長く、降雨量も全国平均より少ない。
自社畑は山の麓にあり、ゆるく傾斜しているのが特徴だ。標高は高くないものの、畑周辺エリアは昼夜の寒暖差があるため、ぶどうの栽培地として恵まれた環境だという。
自社畑の土壌は場所によって異なり、粘土質土壌と砂質土壌のエリアがある。いわきワイナリーは、畑ごとに特徴がある土壌を存分に生かしたぶどう栽培をおこなっているのだ。
丁寧な栽培管理をおこなういわきワイナリーは、ぶどう栽培においてこだわっているのは、畑の状態をよく観察することだという。
「ぶどうの様子をしっかりと観察することで、必要な作業が明確になります。ハンディキャップがある利用者さんたちと足並みを揃えて栽培に取り組むためには、日々の観察が欠かせません。ぶどう作りだけではなく、すべての基本となることですが、コツコツと地道な作業をこなしていくことが重要ですね」。
具体的に気をつけているのは、風通しの確保と適切な雨よけの設置、虫や鳥獣害の予防などである。風通しの確保のためには、除葉や剪定作業が不可欠だ。ぶどうの生育状況や状態を常に観察しているからこそ、ぶどうの生育に最適な剪定方法を選択できる。
また、雨対策としては、品種ごとに最適な方法を導入している。メルローとシャルドネには袋がけ、それ以外の品種にはビニール製のレインガードを設置して雨の被害を最小限に抑えているのだ。

『いわきワイナリーのワイン造り』
続いては、いわきワイナリーが醸すワインについて見ていこう。いわきワイナリーがリリースしているのは、クリアで長期熟成に耐えられるワイン。本格派の味わいは、幅広い料理と合わせられるのが特徴だ。
ワイン造りに込めた思いとおすすめの銘柄、合わせて楽しみたい料理を紹介しよう。
▶︎ワイン造りにおけるこだわり
いわきワイナリーのワインについて、四家さんは次のように話す。
「クラシカルで正統派スタイルのワインを造っています。酸がしっかりと残りつつも、飲み心地のよいタイプが多いですね。すっきりとした味わいでありながら、長期熟成に耐えられるワインです」。
ワイン造りにおいては、日本食に合うワインになるように心がけている。福島県浜通りという豊かな食文化が息づく土地で生まれたワインだからこそ、幅広いペアリングが楽しめることを重視しているのだ。
▶︎「シャルドネ 樽熟成 2023」
最初に紹介するのは、「シャルドネ 樽熟成 2023」。2025年の「フェミナリーズ世界ワインコンクール」では金賞を受賞し、同年の「インターナショナルワインチャレンジ」では入賞を果たした、いわきワイナリーの自信作だ。シャルドネの持つミネラル感と、樽香が溶け込んだ優しいまろやかさを持つ、上質な白ワインである。
ネット販売はしておらず、ワイナリーの直営ショップのみで販売している銘柄のため、気になる場合にはいわきワイナリーに直接足を運んで手に取ってほしい。
「穏やかさの中にしっかりと樽香も感じられる、バランスのよい味わいに仕上がりました。温度によって印象が変化するため、飲み進めるうちにさまざまな風味を楽しめます。冷やした状態だと酸が際立ってすっきりしていますが、温度が上がると、どんどんまろやかになってきますよ」。
「シャルドネ 樽熟成 2023」に合わせるなら、福島産の海鮮がよい。福島名物「ウニの貝焼き」とのペアリングなら、濃厚でクリーミーなウニと芳醇な磯の香りが、「シャルドネ 樽熟成 2023」のまろやかさとマッチする。
四家さんのおすすめは、地元産の海産物である「常磐(じょうばん)もの」とのペアリングだ。寒流と暖流が交わる潮目に当たる福島県の沿岸「常磐沖」で水揚げされる魚介類は、「常磐もの」と呼ばれて評価が高い。
「蒸したヒラメに香ばしいクルミソースをかけた料理と『シャルドネ 樽熟成 2023』の組み合わせは最高でした。コクのあるシャルドネの風味は、和食にも洋食にもよく合いますよ」。

▶︎「ピノ·ノワール 樽熟成」
続いて紹介するのは、「ピノ・ノワール 樽熟成」。なんと、生魚に合わせられる赤ワインだという。マグロやハマチ、サーモンだけでなく、白身の刺身との相性もよい。
「『ピノ・ノワール 樽熟成』は、刺身の盛り合わせと一緒に楽しむことができる赤ワインです。生魚と合わせると、食材の旨味や甘みを引き出してくれますよ」。
「ピノ・ノワール 樽熟成」に使用しているのは、砂質土壌の大久農園で栽培されたピノ・ノワールだ。樹齢の高いぶどうのみを使い、1年ほど樽熟成させた。「ピノ・ノワール 樽熟成」も、ワイナリー直営ショップのみで購入できる限定品だ。
「ピノ・ノワールの栽培自体は順調な年が多いのですが、醸造がなんとも曲者です。繊細で気難しいぶどうだと感じていますが、リリースしたものは全て自信作です」。

▶︎多彩なラインナップが魅力
いわきワイナリーのラインナップは、例年30種類前後。多くのぶどう品種を栽培しているからこそ、多様な組み合わせのブレンドワインや単一品種のワインなどが揃う。
目移りしてしまうようなラインナップの中から、おすすめの銘柄をさらにいくつか紹介しよう。
「コンクールでの受賞歴があり、常に高い品質で提供しているのが、『マスカット・ベーリーA』『富士の夢』『甲州』を使った製品です。ステンレスタンクでシンプルに醸造し、素材のよさを引き出しています」。
それぞれ詳しく紹介しよう。まず「マスカット・ベーリーA」は、「キャンディ香」が出ないように工夫しているため、ドライな赤ワインに仕上がっている。スッキリとした後味なので食事にも合わせやすく、日常の食卓で気軽に楽しめる銘柄だ。
マスカット・ベーリーAを使ったワインは、他にも樽熟成した「マスカット・ベーリーA 樽熟成」がある。鴨肉料理やタレ味の肉料理、根菜を使った料理などとのペアリングがおすすめだ。ぜひお気に入りの組み合わせを見つけて楽しみたい。
続いては、白ワインの紹介に移ろう。紹介するのは「甲州」。辛口の白ワインで、キリッとした味わいが楽しめる。
「発酵時の温度に気をつけて管理し、和柑橘系のフルーツ香を引き出しました。香りもよく、貝との相性が抜群の1本です」。
四家さんのイチオシは、福島で獲れるホッキ貝の刺身とのペアリング。もちろん、定番の酒蒸しやバター焼きなどにもマッチする。いわきワイナリーの「甲州」は、いわき市内の和食店でも提供されており、「地元海産物との王道ペアリングワイン」とも言える存在だ。
また、甲州を使ったワインのラインナップには、皮ごと醸したオレンジワインの「甲州オレンジ」もある。「常磐もの」のアンコウを使った「どぶ汁」と呼ばれるアンコウ鍋とよく合う「甲州オレンジ」は、アンコウが旬を迎える寒い季節にもぴったりだ。

『いわきワイナリー設立10周年 節目を迎えて』
最後に、いわきワイナリーの「未来」について見ていきたい。いわきワイナリーはこれから、何を目指して進んでいくのだろうか。
ぶどう栽培とワイン造りに対するワイナリーの思いと、今後のヴィジョンについてお話いただいた。
▶︎ワイナリーとしての存在価値をさらに高める
2015年にワイナリーが本格始動してから10年が経過し、いわきワイナリーは大きな節目の時を迎えた。四家さんはこれからのいわきワイナリーについて、次のように話す。
「いわきワイナリーの存在意義は、設立当初から変わらず『ハンディキャップを持つ人々の自立支援の場となること』です。自立支援の場所であり続けるには、誰もが働ける居場所として、今後も安定的に事業を継続していくことが必要です」。
また、地域に根ざしたワイナリーとして、地元の人たちにより親しまれる存在になることも目指している。目指す姿に近づくために必要なのは、よいワインを造り、ワイナリーとしての価値を高めることだ。
地域に親しまれるワイナリーになれるようなワイン造りを進めるのと並行して、コンクールにも積極的に挑戦するつもりだという。
広い世代に愛される「地域のワイナリー」として、また、全国のワイン愛好家を中心としたさまざまな世代に選ばれる日本のワイナリーとして。いわきワイナリーは強みや魅力を発信し続け、これからもファンを増やし続けていく。
「ワイナリー設立の背景や願っていることも含めて、いわきワイナリーの取り組みに共感してくださる全ての方にワインを届けられたら、何よりも嬉しいですね。私たちが描くストーリーに見合うように、今後も素晴らしいワインを造ることを追求していきたいです」。

▶︎ぜひワイナリーに足を運んで欲しい
いわきワイナリーの真価は、ワイナリーに足を運んでこそ味わえる。ワイナリー直営ショップでしか手に入らない銘柄が多数あるだけではなく、ワイナリー周辺に広がる自然豊かな風景も、ワインの味わいの一部となっているからだ。
「いわきワイナリーは自然の美しい場所にあります。山々の広葉樹やぶどう畑の緑は、青い空とのコントラストが美しいですよ。ワイナリーに来て、心癒やされる時間を過ごしてください」と、四家さんは微笑む。
醸造所に近接したおしゃれなショップでは、ワインの販売だけでなく、試飲も楽しめる。チーズなどの軽いおつまみと共に、常に10種類ほどのワインが日替わりで試飲できるため、一度と言わず二度三度と足を運びたくなるだろう。ワイナリーで色々なワインを味わいながら、自分好みの1本を見つけるのは贅沢な時間だ。
「私たちは、いわき市で真面目にこつこつとワイン造りに励んでいます。いわきワイナリーのワインを飲んでいただければ、きっと美味しいと感じていただけるはずです。ワイナリーにきていただけるのをお待ちしています」。

『まとめ』
ハンディキャップを持つ人々の自立支援の場所として誕生した、いわきワイナリー。こだわりのぶどう栽培とワイン醸造をおこない、より高い品質を追求する真摯な姿勢は、設立当初から変わらない。
「いわきワイナリーの強みと価値は、『たくさんの人々の願いが詰まっている』という点にあります。いろいろな人の願いが、いわきワイナリーの価値を生み出しているのです」。
いわきワイナリーでは毎年11月に、「いわきワイナリー収穫感謝祭」を開催している。秋の実りを祝う年に一度のワインのお祭りには、全国各地から多くの人が足を運ぶ。ぶどう畑と阿武隈山地を眺めながら、できたてのヌーヴォーを味わえるイベントだ。
地元グルメや音楽も楽しめる屋外イベントなので、気になった人は公式SNSで情報をチェックしてみてほしい。秋晴れの休日に自然の中でゆったり過ごす時間は、きっと特別なものになるだろう。

基本情報
| 名称 | いわきワイナリー |
| 所在地 | 〒970-1152 福島県いわき市好間町中好間字半貫沢34-72 |
| アクセス | https://iwakiwinery.com/contact |
| HP | https://iwakiwinery.com/ |
