『GRAPE REPUBLIC(グレープ リパブリック)』山形県南陽市が生んだ「Made from 100% Grapes」

山形県南陽市にある「GRAPE REPUBLIC(グレープ リパブリック)」は、東京、横浜、大阪でイタリアンレストランを経営するなど、幅広く事業を展開している「サローネグループ」を経営母体に持つワイナリー。

GRAPE REPUBLICがある南陽市は、オーナーである平高行さんの母の地元で、古くからぶどう栽培が続いてきた土地だ。そんな南陽市のぶどう栽培を再興することを目的として、2017年に設立したGRAPE REPUBLIC。南陽市の風土を生かして育てたぶどうを使い、素焼きのかめ「アンフォラ」でワインを造っている。

GRAPE REPUBLICで取締役兼醸造責任者を務めるのは、イタリアンの料理人から転身してワイン造りの道に進んだ矢野陽之(はるゆき)さんだ。かつて料理の修行をするために渡ったイタリアで、ワインが日常的に楽しまれていた光景が忘れられず、ぶどう栽培とワイン醸造をすることを決めた。

今回は矢野さんに、GRAPE REPUBLICが南陽市にワイナリーを設立することになったきっかけと、ぶどう栽培とワイン醸造におけるこだわりについてお話いただいた。矢野さんが日本ワインの未来に託す思いについても伺うことができたので、詳しく紹介していきたい。

『南陽市のぶどう畑を守りたい』

GRAPE REPUBLICのオーナーである平さんが南陽市にワイナリー設立を決めたのは、2011年のことだった。東日本大震災が発生した後、料理人である平さんは、車に食材を積み込んで宮城県石巻市まで炊き出しに通っていた。

その際、南陽市に親戚のもとに立ち寄る機会があり、久しぶりに南陽市に足を踏み入れて気づいたのは、ぶどう畑が昔よりも減ってきていることだったという。

▶︎GRAPE REPUBLIC設立までの経緯

子供の頃の平さんにとって、母と共にかつて訪れた南陽市内は、どこまでも広がるぶどう畑が美しい土地だった。だが、ぶどう栽培自体は続いているものの、後継者不足などが原因で畑は目に見えて減少し、懐かしい思い出と共にある光景が消えつつあったのだ。

そんな現状をなんとかしなければという使命感にかられた平さん。南陽市をぶどうの産地としてもう一度盛り上げたいと考え、GRAPE REPUBLICを設立した。

「ぶどう共和国」という意味を持つ名前には、先頭に立って行動し状況を改善していくという強い思いが込められている。自然災害が多い日本では、天候に左右される大変な仕事というイメージが強い。若い人が就農しにくくなっている中ではあるが、農業の新たな担い手を増やしていきたいと考えているそうだ。

▶︎矢野さんとGRAPE REPUBLICの出会い

ここで、醸造責任者の矢野さんがGRAPE REPUBLICと出会うまでの道のりを振り返ってみよう。

イタリアンの料理人として兵庫・大阪で働いていた兵庫県神戸市出身の矢野さん。料理の腕をもっと磨きたいと、24歳の時に単身イタリアに渡り、ボローニャのレストランで2年間の修行を積んだ。

イタリア滞在中に興味を持ったのが、イタリアのワイン文化だった。嗜好品ではあるが、人を惹きつける力を持っているワインを、面白い飲み物だと感じたという。イタリアの食卓に欠かせない存在であるワインと共に食事を楽しむ様子を間近で見た矢野さんは、人々を虜(とりこ)にするワインを自分の手で造ってみたいと考えた。

日本に帰国した後、今度はオーストラリアとニュージーランドにワーキングホリデービザで滞在して、ぶどう栽培とワイン醸造に従事。また、ワインショップやワインバーでも働き、知見を深めた。

転機となったのは、ニュージーランド南島の北端にあるタスマン地方で働いていた時のこと。ぶどう栽培やワイン造りの師匠となる、アレックス・クレイグヘッド氏に出会ったのだ。GRAPE REPUBLICのアドバイザーであるクレイグヘッド氏は、日本に帰国することになった矢野さんに、GRAPE REPUBLICで働いてはどうかと声をかけてくれた。

帰国した矢野さんは、平さんから直接GRAPE REPUBLIC発足のきっかけを聞き、平さんの思いに共感。2018年に山形県南陽市に移住し、GRAPE REPUBLICで醸造家として活躍することになったのだ。

高温多湿な日本とニュージーランドでは、栽培管理の方法や酵母の働きが全く異なるため、あまり参考にならなかったと苦笑する矢野さん。しかし、ワイン文化の伝え方などについて自分の目で見て肌で感じられたことは、人生のよい経験になったと振り返る。

『GRAPE REPUBLICのぶどう栽培』

ここからは、GRAPE REPUBLICのぶどう栽培について見ていこう。自社畑があるのは、南陽市の「新田(しんでん)」地区だ。自社畑の特徴と気候、栽培している品種を紹介したい。

もともとぶどう栽培が盛んだった南陽市は、山形県におけるぶどう栽培の発祥の地とされ、デラウェアを中心としたさまざまな品種のぶどうが栽培されてきた。GRAPE REPUBLICは、南陽市でどのようなぶどう栽培をおこなっているのだろうか。

▶︎自社畑の特徴と気候

標高450〜500mに位置する自社畑は、山形県としては高いエリアにある。昼と夜の寒暖差が大きいため、糖度が高く、酸も保持した状態のぶどうが収穫できる土地だ。

新田地区では、平らな土地では稲作、斜面ではぶどう栽培がおこなわれている。GRAPE REPUBLICの自社畑の土壌は水はけがよい東向きの傾斜地で、必要とする糖度まで上がるだけの日照量が確保できる。

「年によって積雪量は異なりますが、南陽市新田地区は豪雪地帯です。2025年は特に雪が多く、2mくらい積もった雪が垣根のポールまですっぽりと覆うほどでした。例年ならすでに剪定が終わっている4月に、ようやく雪が溶け始めました。雪害が多いので、畑の管理が大変ですね」。

▶︎自社畑で栽培している品種

自社畑で栽培している品種を紹介しよう。新田地区での栽培の歴史が長い生食用品種と、醸造用品種の両方を栽培しているのが特徴で、2025年現在の栽培面積は3haだ。

  • デラウェア
  • シャインマスカット
  • ナイアガラ
  • ネオ・マスカット
  • マスカット・ベーリーA
  • メルロー
  • アルバリーニョ
  • ガメイ
  • サンジョベーゼ
  • ネッビオーロ
  • カベルネ・フラン
  • ケルナー
  • ソーヴィニョン・ブラン
  • シャルドネ
  • ヤマソーヴィニヨン

新田地区では現役農家がだんだんと高齢化してきており、栽培を継続できなくなったという声も多い。地域の栽培農家が管理できなくなった畑を引き継いで管理しているため、樹の仕立て方は畑によってさまざまだ。垣根と棚の両方があるが、昔から栽培されてきた生食用品種は棚栽培が多いという。

GRAPE REPUBLICのぶどう栽培では、有機農業を採用。使用する薬剤はボルドー液のみだ。

「私は海外でぶどう栽培を学んだため、最初は有機栽培を徹底したいと考えていました。しかし、十分な収量が確保できなければワインは造れません。そのため、現在のいちばんのこだわりは、持続可能な農業をすることですね。農薬や除草剤は益虫も殺してしまうため、畑の環境が自然とはいえない状態になります。農薬を否定するわけではありませんが、なるべく減らして、虫や雑草、微生物など色々なものが共存している畑にしたいという信念を持ってぶどうを栽培しています」。

雨が多い日本では雨対策は必須なので、レインカットも導入。本当はレインカット無しがよかったと矢野さんはため息をつくが、次世代が継ぎたいと思ってくれる畑にすることが最優先だ。未来に続く農業をおこなうため、こだわりすぎず、海外と日本の気候は違うことを受け入れて取り組んでいる。

▶︎「造り手自身もテロワールの一部」

ワインを造る上で大切にしていることは何かと矢野さんに尋ねてみた。

「栽培・醸造メンバーに共有していることは、しんどい仕事だと思いながらやってると、できたぶどうもワインもそれなりのものになってしまうので、気をつけようということですね。興味を持って、楽しみながら取り組んで欲しいと考えています」。

矢野さん自身は、仕事をしているという気持ちはなく、栽培・醸造が自分のライフサイクルの一部だと考えている。そして、自分自身も、自ら造るワインのテロワールの一部だと思っているのだ。

「人がテロワールに含まれるのかどうかは哲学的な話になるかもしれませんが、南陽市新田のテロワールには、自分も含まれていると感じています」。

矢野さんの最終的な目標は、日本ワインが常に日本の食卓に置かれること。料理を学ぶために足を運んだイタリアでワインの魅力を発見したように、地元産のワインが地元の人の食卓にいつもある景色が理想なのだ。

「日本ワインがそんな存在になったのをこの目で見てから死にたいですね。自分の世代で成し遂げることができなければ、次世代が実現してくれても構いません。スタッフにもそんな思いを共有しています。ワインをもっと好きになって、飲みたいと思って欲しいですね。ワインは楽しいお酒ですので、造り手が楽しみながら造った思いは、きっと味に反映されると思うのです」。

『GRAPE REPUBLICのワイン醸造』

GRAPE REPUBLICがワインを造る上で大切にしているのは、若い世代が持つワインのイメージを変えられるようなワインを造ること。

「私たちの役目は、若い人たちにも飲みやすいワインを造ることだと考えています。凝縮感があって濃厚なワインでなく、もっとジュースっぽくてよいのです。若い人がワインを飲む最初の入り口になりたいですね」。

2018年からGRAPE REPUBLICでワインを造り続けている矢野さんが目指すワイン像は、非常に明確だ。GRAPE REPUBLICのワイン造りについて深掘りしていこう。

▶︎アンフォラを使うワイン造り

みずみずしくて飲みやすい味わいのワインを造るGRAPE REPUBLICでは、高アルコールワインを目指していないため、白ワインならアルコール度数は10〜12度程度。また、渋みや苦味の成分を抑えるため、オレンジワインのスキンコンタクトも短めにとどめている。

醸造におけるこだわりは、発酵・熟成に「アンフォラ」を使用していること。ワイン造りにメインで使用しているデラウェアやナイアガラ、ネオ・マスカットは香りが強い品種だ。そのため、香りを生かす醸造を心がけているのだ。その際、酒質がある程度滑らかになって、かつニュートラルに造れるのがアンフォラを使う方法だったという。

品種由来の香りを生かすなら、密閉できるステンレスタンクが適している。一方、酒質を滑らかにしたいなら、空気を通す樽がよいだろう。だが、樽で発酵・熟成させると樽香が付き、ぶどう本来の香りを消してしまう。そこで、両方のよいところだけを生かせる方法としてアンフォラを採用した。

素焼きのアンフォラは空気を通すためにワインが酸化しやすい。そのため、アンフォラを地面に埋めることで空気の通りを遮断し、フレッシュ感を強めに出すように工夫している。

「GRAPE REPUBLICが目指すワインを造るための手段として、アンフォラは最適だと感じています。発酵も熟成もできるうえに、土でできているのでごくわずかな土っぽさなどの複雑味が出ます。ぶどうは土で育つ植物なので、土の容器で熟成させるのは理にかなっているのではないでしょうか」。

▶︎ぶどうのよさを生かす醸造

GRAPE REPUBLICのワイン造りのもうひとつのこだわりは、余計と思われるものは入れないこと。

テロワールはぶどうが表現してくれるものなので、ぶどうがそのままワインになることが、よいワインができることだと話す矢野さん。GRAPE REPUBLICでは、補酸・補糖とフィルタを使った濾過(ろか)はしていない。

「寒い土地のため、濾過しなくても5℃以下になると、澱(おり)が勝手に下がります。そのタイミングで『澱引き』をすると、フィルタを使う必要がないのです。また、ぶどうの状態に寄り添って最適な醸造方法にすると、野生酵母を使用した場合でも酸化防止剤は必要ないことが多いですね」。

GRAPE REPUBLICのワイン造りが可能なのは、南陽市新田の気候があってこそだ。酸を十分に保持しており、pHの値が低いぶどうが収穫できるため、醸造段階で酢酸菌などのバクテリアの影響を受けにくい。

「この土地の気候の恩恵を受けてワイン造りをしています。年ごとの気候の違いもテロワールの一部で、飲み手の皆さんの楽しみにもなっていると思います。そのため、ぶどうそのもののよさをしっかりと生かす醸造をしています」。

『GRAPE REPUBLICのおすすめワイン』

GRAPE REPUBLICがリリースしている銘柄のうち、矢野さんおすすめのものをいくつかピックアップしていこう。ワインに合う料理と共に紹介いただいたので、ペアリングする際の参考にしたい。

▶︎「キュベ新田(Cuvée Shinden)」

まずは、辛口オレンジワインの「キュベ新田(Cuvée Shinden)」を紹介する。GRAPE REPUBLICのフラッグシップである「キュベ新田」は、主力品種であるデラウェアのよさを引き出した、新田の気候を存分に味わえるワインだ。

「有機栽培している自社畑のデラウェアのうち、最後に収穫する区画のものを使用しています。デラウェアは通常8月から9月に収穫しますが、『キュベ新田』に使用しているものは9月半ば以降に収穫しているため、しっかりと熟成して糖度が高いのが特徴です。畑で選果して、房ごと仕込む『全房発酵』をしています」。

自然酵母で発酵させている「キュベ新田」は、土地の力をダイレクトに感じる力強い味わいだ。簡単な醸造方法だが、「ぶどうが美味しいから、どうやったって美味しくなる」と矢野さんは嬉しそうに言う。

アンフォラに入れて発酵させるのは、およそ40日ほど。その後アンフォラから出して絞り、再びアンフォラに戻して9ヶ月熟成する。途中1度だけ品質チェックをするが、問題なければそのまま熟成させ、最後に澱引きしてから瓶詰めする。

「特別なことはしていませんが、アンフォラが美味しいワインにしてくれます。色合いは濃いオレンジ色で、生食用のぶどう品種を用いていることから生まれる飲みやすさがあります。また、房ごと使って造っているので、ほんのりとスパイシーな印象も魅力的ですよ」。

力強いぶどうを使っているので余韻が長い「キュベ新田」は、ガストロノミー系の食事に合う。

「少量ずつ繊細な料理を楽しむ時や、特別な日のレストランでの食事に合わせてください。家庭で楽しむ場合は、酸味と甘みのある中華料理が合うと思います。油淋鶏(ユーリンチー)などがよいかもしれませんね」。

▶︎みずみずしく飲み心地のよいワイン

続いては、GRAPE REPUBLICが力を入れている飲みやすいワインの中から、「ビアンコ(Bianco)」を紹介しよう。みずみずしく飲み心地のよい味わいで、ワインに縁のなかった若い人にも「これは美味しい!」と親しんでもらうことを考えて造った「ビアンコ」は、しっかり冷やして飲むのがおすすめだ。

「ビアンコ」のエチケットは、美しい色合いの鶴のイラストが印象的。南陽市には鶴の恩返しの伝説が残っているお寺があることから、鶴の絵をエチケットのモチーフに採用した。

「私たちは南陽市で育ったぶどうの力を借りてワインを造っているので、ワインを通して南陽市に恩返しをしたいと思い、南陽市にゆかりのある鶴を使っています」。

GRAPE REPUBLICらしいワインには、「ビアンコ」の他にも「アランチョーネ(Arancione)」などがある。リーズナブルなラインで、かなりおおらかに飲みやすく造っている。スキンコンタクトの時間を短くして苦味を出さないように工夫した。

「スポーツドリンクのように、体にすうっと浸透する味わいのワインです。土地のものによく合う仕上がりで、春先に畑に生えている「フキノトウ」の天ぷらには本当によく合います。ぜひ、苦味がある山菜などと一緒に楽しんでいただきたいですね」。

『まとめ』

昨今のナチュラルワインのムーブメントには色々と感じるところもあるが、と前置きしながら、矢野さんはワイン造りにかける思いを話してくれた。

「ワインはぶどうと酵母だけで出来るお酒で、造り手は手伝いをしているだけです。ただし、造り方によっては好ましくない味わいになることもあるので、気をつけなければなりません。それを承知の上で、GRAPE REPUBLICはあえて有機栽培を導入し、失敗覚悟で先陣を切って進むことを決めました」。

GRAPE REPUBLICが有機栽培を採用したのは、醸造家の自我から出たこだわりではない。持続可能な農業をおこない、ぶどうにとってよい環境を作ろうと試行錯誤した末にたどり着いたのが有機栽培だったのだ。

「GRAPE REPUBLICのぶどう栽培とワイン造りは、若い人たちのお手本になるでしょう。失敗しても、次世代に伝えていければそれでよいと思っています。失敗を恐れず挑戦し続けているのは、若い人たちに『ぶどう栽培とワイン醸造をしたい』『日本のワインって美味しい』と思ってほしいからなのです。GRAPE REPUBLICを、若い人が集まる場所にしたいですね」。

ナチュラルワインとクラシカルワインの分断をなくすることも、矢野さんの願いのひとつだ。そのために、いろいろなものを見て感じて感性を磨き、ワイン造りに生かしていきたいと考えている。

「誤解を恐れずに言えば、ワインは所詮ワインで、それ以上でもそれ以下でもありません。しかし、食事や人生を楽しむためには、なくてはならない存在です。ぶどう畑とワイナリーを次世代に引き継ぐためには、世界に認められる日本ワインを造ることが大切です。先人への感謝を忘れず、よりよいワインを造って、GRAPE REPUBLICのワインを世界に広めていきたいですね。これが私たちがワインを造る『責任』だと思っています」。

基本情報

名称GRAPE REPUBLIC
所在地〒999-2205
山形県南陽市新田3945-94
アクセス赤湯駅から車で約10分
HPhttps://grape-republic.com/top

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