皆様、こんにちは。今回は、2025年に創業120年を迎えた山梨県大月市の酒販店「Wine Cellar HASEBE 長谷部酒店」代表、長谷部賢氏をお迎えし、日本のワイナリーの皆様へのメッセージをお届けします。
「一般社団法人 日本ソムリエ協会」常務理事、「山梨県立大学」客員教授、「JR東日本 トランスイート・四季島」ワイン・コンセルジュなど、酒販店代表以外にも活動の幅が多岐に渡る長谷部さん。ワイン文化を広く浸透させようとはじめた「ワイン笑講座」は、遠方から足を運ぶ受講者もいる人気講座です。これらの活動の根底には「ワイン文化を構築しなければ、日本におけるワイン業界の発展は難しい」という、長谷部さんが抱く危機感がありました。
日本でワイン文化を構築するために大切なことはなにかについて、長谷部さんに詳しく伺いました。長谷部さんが考える「ワイナリーが安定的に事業を継続するためのヒント」も紹介していますので、ぜひ最後までお読みください。
『長谷部賢氏プロフィール』

1905年創業『Wine Cellar HASEBE 長谷部酒店』代表、
ソムリエ・エクセレンス
ボルドーワイン委員会認定 ボルドー公認講師
2011年 甲州市勝沼町に「勝沼食堂パパソロッテ」オープン
2013年 ワインアドバイザー全国選手権大会において優勝
2017年 JR東日本『トランスイート・四季島』ワイン・コンセルジュ就任
2022年4月 山梨県立大学客員教授就任
2025年 (一社)日本ソムリエ協会常務理事就任
『Wine Cellar HASEBE 長谷部酒店が選んだ道』
1905年の創業以来、3代にわたって地域に根差した「町の酒屋」として親しまれた「長谷部酒店」は、4代目である長谷部さんの代になって大幅に方向転換した。「ワインを中心とした品揃えの酒屋」に舵を切ったのだ。
「酒販免許の自由化によってスーパーでも酒類の販売が可能になり、地域の酒屋が事業を継続していくには『個性』が必要になりました。生き残るために私が選んだのが、ワインの販売に特化するという方向性でした」。
▶︎コンクールへの挑戦と、14年越しの栄冠
自社での販売の主軸をワインにすると決めた長谷部さんは、ワインを扱うことへの専門性を高めたいと考えた。まず1997年に「ワインアドバイザー(現ソムリエ)」の資格を取得し、1999年には自身の力を試すべく、コンクールに初挑戦した。長谷部さんが出場したのは、日本ソムリエ協会主催の「第3回ワインアドバイザー全国選手権大会」で、優勝者は後に「マスター・オブ・ワイン」となる大橋健一氏だった。
結果は納得のいくものではなかったが、志を新たにした長谷部さんは、その後もコンクールに挑み続けた。2001年、2007年と準優勝を果たし、着実に実力を高めていく。
そして2013年、7度目の挑戦にして悲願の優勝を勝ち取ったのだ。初出場から実に14年という長い道のりは、決して平坦ではなかった。長谷部さんはなぜ、挑戦し続けたのだろうか。
「『ワインに詳しい酒屋です』と言うことは簡単ですが、お客様から本当に信用を得ることはできないでしょう。資格を取得してコンクールで名を残すことで初めて、『この人にならワインの相談をしても安心だ』と思っていただけるだけの信用が生まれて、選ばれる店になると考えたのです。時間はかかりましたが、挑戦してよかったと心から思っています」。
▶︎学びの中で気づいた現実と使命感
コンクールへの挑戦を通じてワインと向き合い続けた日々は、長谷部さんをワインの深みへといざなった。だが、知識が深まれば深まるほど、日本ではワインがあまり飲まれていないという現実と向き合うことになる。
「一般の消費者からは、ワインは今でも『特別視』されていて、大事な記念日に開けるもの、知識がないと楽しめない、といったイメージが根強く残っています。ワインを特別なお酒のままにしてはいけないという思いが、私の情熱の原点になっているのです」。
現在、長谷部さんは、「一般社団法人 日本ソムリエ協会」常務理事、「山梨県立大学」客員教授、「JR東日本 トランスイート・四季島」ワイン・コンセルジュなど、ワインに関して多岐にわたる役割を担っている。全ての活動の根底にあるのは、「ワイン文化を構築する」という強い使命感だ。
▶︎ワイン文化の裾野を広げるために
長谷部さんは、ワイン文化を広く浸透させるための講座も主催している。2002年からスタートした「ワイン笑講座」だ。
長谷部さんが20年以上にわたって主催する「ワイン笑講座」は、山梨県大月市と東京都八王子市の2拠点で開催している。月1回、全5回を基本とする講座のテーマは「とにかくワインを飲もう!」とシンプルだ。
「ワイン笑講座」は、資格取得を目指す堅苦しいスクールではない。「赤・白・ロゼの違いを知らなくても大丈夫です」と長谷部さんは微笑む。純粋にワインの楽しさを伝えるための講座だからこそ、講座名に「笑」の一文字を入れたという。
「一般的なワインスクールの講師は、野球に例えると『プロ野球の監督』のような人が多いのです。プロレベルの選手を相手にするような教え方をしていて、一般の人にとってはレベルが高すぎます。私の役割は、『少年野球のコーチ』ですね。難しいことは何も知らなくていいんです。ワインは楽しいものだということを一緒に感じて、楽しんでもらうための講座です」。
「ワインを知らない人の視点」こそが、現在のワイン業界に圧倒的に足りていないと長谷部さんは指摘する。実際に長谷部さんの店を訪れるお客様の多くが、「ワインのことは全く知らないのですが」という言葉から相談を始めるという。
「『ワインについて知らないことはマイナスである』という雰囲気を作ってしまっているのは、酒屋も含めた、我々ワインを売る側だということを自覚しなければなりません。問題点を自覚した上で、知らない人にも楽しく伝えるアプローチを考えなければ、かえって足を遠のかせることになってしまいます」。
世界を目指すソムリエを養成する高度な教育と並行して、ワインを飲む層の裾野を広げる取り組みも同様に重要であり、どちらかに偏ってはワイン業界全体の発展は望めない。プロだけでなく、一般の人々も同じようにワインを楽しめる環境を整えることが、長谷部さんの活動の目的なのだ。
▶︎ワインのさまざまな楽しみ方を提案
国内のワイン消費量に関するデータから見ても、日本においてワインが市民権を得ていないことは明白だと長谷部さんは言う。
「衝撃的な数字ですが、例えば2025年6月のデータでは、日本全国の成人二人以上の世帯がワインを購入する1か月あたりの金額は、飲食店の利用を除くと、全国平均でわずか235円なのです。飲む人は熱心に飲むけれど飲まない人は全く飲まない、というのが日本におけるワインの位置付けです。世の中には『敷居が高い』ワインの発信をする人が溢れているからこそ、『敷居が高くない』楽しみ方も伝えていかなくてはならないと思うのです」。
長谷部さんの願いは着実に実を結んでいる。「ワイン笑講座」は全5回で完結するコースだが、初回である2002年から欠かさず参加し続けている受講者もいるという人気ぶりだ。また、近年は遠方から講座に通う人も増えた。そこで、受講者の熱意に応え続けて、地元の人にもっと気軽に参加してほしいという思いから、新たな試み「プティ・ワイン笑講座」も開始した。
「『プティ・ワイン笑講座』は、参加者が一名でも二名でも開催します。参加費2,000円で、ワインテイスティングは2種類です。大月在住または大月勤務の方を対象に、平日に不定期開催しています。自分のワインスキルをもっと地域に還元したいという思いから始めました」。
長谷部さんは、地域に恩返しをするのは当然のことだと力を込める。遠方のファンを大切にしながらも、地盤である地域社会に深く根を下ろすというバランス感覚のよさが、120年続く酒店ならではの強みなのかもしれない。

『酒屋としてのこだわり 顧客に真摯に向き合う姿勢』
Wine Cellar HASEBEの販売スタイルはユニークだ。「食べて飲める酒屋」として、ワインに合うおつまみを店内で提供し、さらには食事の持ち込みまでOKだという。スーパーで購入したピザや、長谷部さんがおすすめする近隣の飲食店にケータリングを頼むなど、訪れる客は各々の楽しみ方で店内のワインを満喫する。
他にはないスタイルを確立するに至った長谷部さんは、生産者や顧客とどのように向き合い、ワイン販売に取り組んでいるのだろうか。酒販店としてのこだわりを詳しくお話いただいた。
▶︎顧客を大切にする生産者のワインを扱う
Wine Cellar HASEBEでは、世界のワインと共に、山梨県産を中心に全国各地から厳選した日本ワインも取り扱っている。取引のある日本のワイナリーは50~60軒にのぼるという。
新たなワイナリーとの取引は、長谷部さんから依頼する場合とワイナリー側から打診される場合の両方があるが、実際に取引が成立するまでの過程は一貫している。
「私自身が必ずテイスティングをして、納得したもののみを置かせていただいています。お付き合いを始めるまでには、それなりに時間をかけていますね」。
長谷部さんが「取引したい」と思うワイナリーの基準は明確だ。ひとつは、品質が優れていること。次に、長谷部さんが信頼している生産者がすすめるワイナリーであること。そして何よりも重要な基準が、「顧客を大切にする生産者」であることだ。長谷部さん自身が常に顧客を第一に考えるからこその譲れない条件である。
「頑張っている生産者さんは仕事ぶりも非常に丁寧ですし、ご自身の哲学が明確にあります。生産者さんの哲学に共鳴したら、やはり応援したいと思うわけです。ポリシーがある生産者さんの思いは、ワインの味わいからも伝わってくるものですよ」。
▶︎優れた品質のワインのみを厳選
長谷部さんがワイナリーとのやりとりを始める際には、いくつかの流儀がある。そのひとつが、長谷部さんから生産者に対してサンプルを要求することは決してない、ということだ。
「提供いただけるというご提案があればありがたく受けますが、私自身が試飲をしたいと考えた場合は、必ず購入します。生産者さんがお金と時間をかけて造ったワインなのですから、テイスティングしたいのなら、敬意を払って購入するのは当然でしょう。無料でサンプルを要求するのは非常に失礼なことだと感じるのです」。
テイスティングの結果、取引を見送ることももちろんある。また、どれだけ付き合いの長いワイナリーであっても「今年はお断りする」ということもあるそうだ。自分の店に並べるものだからこそ、一切の妥協なしに判断することを心がけている。
「たとえ絶対に売れるとわかっているワインでも、自分が納得しないものを店頭に並べるわけにはいきません。私自身がお客様に自信を持ってすすめられるものだけを、妥協せずに吟味したいのです」。
厳しくも誠実な姿勢は、生産者に深い敬意を抱いている証だ。自身の信念と顧客への誠実さを貫く姿勢こそが、長谷部酒店が長年にわたり信頼され続けている理由なのだろう。
▶︎激動の時代を生き抜いた酒屋の役割
「ワイン業界において、酒屋は決して目立つ存在ではありません。しかし、酒屋独自の強みがあると思うのです。どんな時代でも冷静に情報をキャッチしクレバーに動いている人が多く、アルコール業界全体を見て行動している人が多いですね」。
酒屋を経営する上で、常に根底にあるのは「地域を盛り上げたい」という強い思いだ。酒屋は日本酒を扱ってきた歴史があるため、神事とのつながりが深く、地域を大切にしなければという気持ちが強いというのだ。
2000年代前半を振り返ると、酒販免許の規制緩和が酒販店にとって苦しみの時代の始まりだった。多くの個人商店が廃業に追い込まれる中、生き残った店には明確な共通点があると長谷部さんは言う。
「今生き残っている酒屋には、専門性が強く、上手く個性を打ち出してきた店が多いですね。私自身も、苦しい思いをしながら専門性を高めることで生き残ってきたひとりです」。
▶︎「わかる言葉」で提案 顧客との向き合い方
続いては、長谷部さんの「顧客との向き合い方」にフォーカスする。激動の時代を乗り越えてきたからこそ、長谷部さんは「選ばれる店」であることの重要性を誰よりも理解している。選ばれる店であり続けるためには、どんな業種であっても、顧客に対する真摯な姿勢が不可欠だと話す長谷部さん。
「プロだからこそ、専門用語を使わずにわかりやすい言葉で、お客様に合った提案を徹底しています」。
例えば「おすすめをください」というリクエストにはどう対応するのだろうか。
「飲む人の情報や、贈り物であれば相手の年齢・性別などを詳しく伺い、お客様に合うワインを導き出します。症状を聞いて処方箋を出すドクターと同じような感覚ですね」。
ワインに詳しくないと感じているお客様がプロに相談するのだから、お客様が説明を理解できなければ意味がない。実際、Wine Cellar HASEBEを訪れる客層は、ワインに関する知識があまり豊富でない方が多いという。幅広い客層にワインの魅力を知ってもらい、「また来たい」と思ってもらうためには、徹底的にお客様の立場になることが重要なのだ。
お客様からは「Wine Cellar HASEBEで買ったワインにはハズレがない」という声が寄せられる。徹底したヒアリングは、個々の顧客に向き合うコンサルタントそのものだ。中には、じっくり相談するために、あらかじめアポイントメントを取ってから店に足を運ぶ顧客もいるという。
▶︎大事なのは「美味しいか」ではなく「その人に合うか」
長谷部さんがお客様にワインを提案する時に常に念頭に置いていることがある。それは、「『自分が売りたいワイン』ではなく『お客様が求めるワイン』を提供する」ということだ。お客様の要望を常に優先しているという。
「お客様にとっていちばん大事なのは『どれが美味しいか』ではありません。『自分の好みや、飲むスタイルに合うかどうか』です。私は日本ワインを応援していますが、お客様の要望を無視して日本ワインをすすめるわけではありません。しかし、お客様の要望に日本ワインがマッチすると感じたら、選択肢のひとつとしてご提案します」。
例えば、お客様から「さっぱりしたフランスワインを飲みたい」というリクエストを受けた場合には、まずフランス産の爽やかなワインを提案する。しかし、会話の中で「今日の夕食に合わせる」という用途がわかれば「日本のワイナリーの甲州も、さっぱりとして料理に合わせやすいですよ」と提案する。
「酒屋の使命は、指定された金額におさまるように、お客様の要望に合わせた最適なお酒を提供することです。日本のワインも世界のワインも平等に選択肢として扱い、お客様にとっての最適解を提案しているのです」。
長谷部さんの公平で誠実な姿勢こそが、顧客からの信頼を確固たるものにしているのだろう。

『日本ワインの未来へ ワイナリーへの提言』
国内外のワインをフラットに扱う長谷部さんにとって、日本ワインとはどのような存在なのだろうか。また、日本のワイナリーが今後さらに発展していくためには何が必要なのか。酒販店としての見解をお話いただいた。
▶︎日本ワインの強みは「人柄とストーリー」
「私は、それぞれのワインが持つ個性がどんな場面で発揮できるかを常に考えながら販売活動をおこなっています。お客様におすすめする上で日本ワインが持つ明確な強みは、『生産者の人柄やストーリー』を伝えやすいという点ですね」。
付き合いがある日本ワインの造り手は、人となりが明確にわかっているため、顧客にワインを提案する際の大きなアドバンテージとなり得る。
生産者の個性とワインの味わいには無視できない関連性があると考えている長谷部さん。その関連性こそが、顧客への提案の鍵となるそうだ。
「面白いことに、情熱的な造り手が造るワインは、味わいが濃いものが多いですね。そういうワインは一口目のインパクトが強いので、大人数で開けるシーンを想定したお客様に勧めやすいです。一方で、少人数でじっくりと飲む場面では、飲み進めるうちによさがわかる繊細なワインが最適なので、繊細な感性を持った理論派の造り手のものをすすめます」。
生産者の人柄だけでなく、ワイナリーとしてのストーリーやコンセプトもワインの魅力を伝える上で欠かせない要素であり、日本で日本ワインを販売する上での強みだ。長谷部さんは、あるワイナリーのエピソードを紹介してくれた。
「ご夫婦で営まれているワイナリーさんの例を挙げると、ワイン造りの哲学は常に一定でブレがありません。非常に人気があるワインですが、販売価格と生産量はずっと変えない。なぜもっと造らないのかと聞くと、『自分たちの目の届くことしかできないから』というのです。生産者の真摯な姿勢や具体的なエピソードを伝えることで、お客様の心に響く提案になるのではないでしょうか」。
▶︎ワイン選びをサポートするためのスキル
日本ワインがさらに発展し、地域に愛される存在となるためには何が必要か。長谷部さんは、改めて「裾野を広げること」の重要性を説く。
「まずはワインを飲んでもらう文化を作ることが重要です。ビールや焼酎などと同じ選択肢のひとつにワインも入れてもらう必要があるのです」。
ワインが日本の一般の人々の選択肢に上がらない最大の理由は「選べないから」だと長谷部さんは分析する。だからこそ、販売側のスキルが問われるのだ。
「私がお客様に必ず伺うのは、『ワイン以外のお酒は何を飲まれていますか?』という質問です。例えば、『比較的酸味の低いお酒』である日本酒が好きなら、酸味の強い白ワインは酸っぱすぎると感じてしまうかもしれないので、酸味の穏やかなものをおすすめします」。
長谷部さんは、酒販店だけでなく、営業担当者を中心としたワイナリー関係者全般にも同様のスキルが必要だと提言する。
「ワインを飲む人の裾野を広げていくには、販売スキルを上げることと並行して、『お客様側がワインを選ぶスキル』を上げられるようにサポートする努力も必要です。そのためには、『美味しいですよ』と伝えるだけではなく、何が美味しいのか、どういう人に、どんな場所で、どんな料理と、どう楽しんでもらいたいのかというコンセプトを明確に伝えることが大切です」。
「ワインについての情報を記憶してもらうことも重要です。ワインの名前やうんちくは記憶に残りにくいので、『このワインは、とあるワインのコンペティションで唯一金賞を受賞したワインです』といった情報を添えてみるのです。『引っかかる情報』を提供すると、飲んだときにその言葉を思い浮かべてもらいやすくなりますよ」。
顧客と深い対話を重ね、何を求めているかを考え抜いたからこその販売アプローチは、難解な言葉選びがなくとも記憶に残るワインの提案ができることを教えてくれる。
『まとめ』
顧客のニーズに寄り添い、ワインの楽しさを伝え続けてきた長谷部さん。活動の根底にあるのは、「ワイン文化を構築する」という揺るぎない信念だ。
生産者に対しては深い敬意を払い、妥協のない基準でワインを選定する。また、消費者に対しては、徹底的なヒアリングを通じて最適な提案をする。プロフェッショナルとしての揺るぎないスタイルは、酒販店の存在意義を改めて認識させてくれるだろう。
ワインを扱う人にとっていちばん必要なのは、知らない人にも楽しさを伝えることだ。ワインが日本の食文化に根付く日まで、長谷部さんの挑戦は終わることなく続いていく。
最後に、日本のワイナリーに向けてのメッセージをお願いした。長谷部さんは、業界の現状を冷静に見つめながら、未来への期待を込めて語る。
「日本のワイナリーの皆さんは本当に頑張っていらっしゃるので、お客様には普段の頑張りをそのまま伝えればよいと思います。かつての酒屋のように、これからはワイナリーが淘汰されていく時代が来るはずですので、生き抜くための強みを構築していってほしいと願っています」。
ワイナリー数が日本で急増している今、事業を安定的に継続していくための鍵は「カラー」「個性」「パーソナリティ」をはっきりと打ち出すことだと長谷部さんはいう。
「特に重要なのは『人』の力だと思います。実力が伴うことが前提ですが、『タレント性のある人』『キーパーソンとなる人』など、ワイナリーの顔になるような立ち位置の人が必要になるのではないでしょうか」。
キーパーソンに「会いたい」「話をしてみたい」という思いは、ワイナリーを訪れようというきっかけに繋がる。
「ワイナリーに行ったら、やはりワインの造り手に話を聞きたいものです。『あの人に会いたいから足を運ぶ』ということが、ワイナリーを訪れるひとつの目的になるのです。知名度だけではなく、オリジナリティと個性の強さがワイナリーの将来性とリンクしてくるような気がしています。醸造家と栽培家のそれぞれのパーソナリティが際立っていれば、さらに強固な強みとなるのではないでしょうか」。
ワインに明確な個性を打ち出し、魅力的な「人」が輝くワイナリーこそが、未来を切り拓くことができるという長谷部さんの言葉は、日本ワイン業界の次なるステージに向けた、力強いエールだ。

基本情報
| 名称 | Wine Cellar HASEBE 長谷部酒店 |
| 所在地 | 〒409-0614 山梨県大月市猿橋町猿橋200 |
| アクセス | https://hasebeken.jp/shop/ |
| HP | https://hasebeken.jp/ |

