日本のワイナリーの皆さまへ:サイエンスラボ代表 鈴木明人氏

皆様、こんにちは。今回は、数々のブラインドテイスティングのコンテストで優秀な成績を収め、2024年2月に出版された「WINE ブラインドテイスティングの教科書」著者であり、ワイン講師としても活躍する鈴木明人氏をお迎えし、日本のワイナリーの皆様へのメッセージをお届けします。

薬剤師の資格を持つ鈴木さんは、製薬会社に勤務するかたわらワインを学び、現在はブラインドテイスティングに関する協会の立ち上げに向けて奔走しています。

ブラインドテイスティングとは、ワインのラベルを隠した状態で、香りや味わいから「ブドウ品種」「産地」「ヴィンテージ」などを推測すること。五感が研ぎ澄まされ、ワインをより体感しながら学ぶことができます。一般社団法人日本ソムリエ協会をはじめ、さまざまな団体がブラインドテイスティングのコンテストを主催。コンテストの様子が動画配信されるものもあります。

最近では「ワインを当てることの快感」からブラインドテイスティングの動画を視聴し、その流れからワインに興味を持つようになった若い世代も多いそうです。

ブラインドテイスティングに情熱を注ぐ鈴木さんから、ブラインドテイスティングが持つ力と可能性について詳しく伺いました。ワイン生産者の皆様にも興味深い話題が盛りだくさんのインタビューとなりましたので、ぜひ最後までお読みください。

『鈴木明人氏プロフィール』

・サイエンスラボ代表
・薬剤師
・「WINE ブラインドテイスティングの教科書」著者
・第4回ヴィノテラスカップ ブラインドテイスティングコンテスト 優勝 (2024年12月)
・日本ソムリエ協会ワインエキスパート(2012年)
・日本ソムリエ協会ワインエキスパートエクセレンス(2017年)
・日本ソムリエ協会SAKE DIPLOMA(2018年)
・日本ブドウ・ワイン学会会員
ヴィノテラス/ワインプラスカレッジ 講師
・ブログ:「情熱とサイエンスのあいだ
・Youtubeチャンネル 「Blind Wine Tasting

『ブラインドテイスティングとの出会い』

日本のブラインドテイスティング界を牽引する存在である鈴木さん。「ブラインドテイスティング道」の始まりには、「もっと知りたい」「わからないと悔しい」というシンプルながらも強い思いがあったという。

まずは、ブラインドテイスティングに深く関わることになったきっかけについてお話いただいた。

▶︎始まりは「悔しい」という思い

鈴木さんが本格的にワインと向き合ったのは、2012年のこと。日本ソムリエ協会のワインエキスパート資格を取得した時だった。ワインエキスパートの第二次試験では、ワインなどのお酒がブラインドテイスティングで出題される。

「試験対策としてブラインドテイスティングの練習を重ねて臨んだのですが、手応えがなかったというのが正直な感想でした。練習した成果を出しきれず納得できるような回答ができないことが、とにかくもどかしかったのです」。

幸い試験には合格したものの、「自分の理解度でワインエキスパートを名乗ってよいのだろうか」という思いが拭えず、納得感がなかったと当時を振り返る。そもそも、ソムリエやワインショップの店員のように「ワインを売る」という明確な目的がない「ワイン愛好家」にとって、「ワインを理解した」と実感できる機会は限られている。

「私にとって、その実感が得られる明確な手段がブラインドテイスティングだったのです。品種や産地を言い当てることができれば、『ワインを理解できた』という自信が持てます。体感と共に知識が身についたという確かな手応えが欲しかったのかもしれません」。

その頃の競技としてのブラインドテイスティングは、現在ほど注目されている分野ではなく、「一部の愛好家が楽しむもの」という位置付けだった。だが、「手応えが得られるようになるまで、ブラインドテイスティングを極めたい」という純粋な意欲が探求心に火をつけ、深く長い探求の道へと歩み出すことになったのだ。

そして、現在に至るまで13年間にわたってブラインドテイスティングの技術を磨き続けてきた経験が、現在の鈴木さんを形作っている。

『ブラインドテイスティングの本質 「感じる力」を研ぎ澄ます』

「手応え」を求めて始めたブラインドテイスティングだったが、長年の経験を通じて、ブラインドテイスティングが持つ本質的な価値に気づくことになったという。

ブラインドテイスティングは単なる「ワイン当てゲーム」ではなく、ワインと向き合うことで人間の感覚を進化させる可能性を秘めている。鈴木さんが魅せられた、ブラインドテイスティングの本質に迫りたい。

▶︎「当てる」から「外さない」へ テイスターのステップアップ

最初は「当たると楽しい」「外すと悔しい」程度の気持ちだったが、仲間たちと練習を重ね、大会に参加して切磋琢磨するうちに、ブラインドテイスティングの世界全体に変化が訪れた。

「以前は『当てるとすごい』という程度だったブラインドテイスティングの常識が少しずつ変わってきました。『ブドウ品種を当てる』ことから、『ブドウ品種を外さない』ことができるようになってきたのです」。

かつては正答率が5割を超えれば上出来とされていたが、7~8割という驚異的な正答率を叩き出す優秀なテイスターが登場した。精度の向上は、ブラインドテイスティングが「確かな技術と知識に基づいた技術」であることを証明したのだ。

「高いレベルで当てられるテイスターが増えたことで、ブラインドテイスティングは世界のワインを正確に言い当てられる技術なのだと皆が気づき始めました。次第にエンターテイメントとしての側面も注目されるようになり、大きな盛り上がりを見せはじめたのです」。

▶︎五感を総動員して「感じる力」を飛躍的に伸ばす

ブラインドテイスティングは、ワインと向き合い、感じたことから答えを導き出す作業である。

「知識と五感を連動させて、感覚を研ぎ澄ませて答えに結びつけるプロセスが重要です。単にワインに詳しくなるという表面的なものではなく、人間の五感を養う力があると感じています」。

目でワインの色調や粘性を観察し、鼻で複雑な香りの要素を捉える。さらに、口に含んでテクスチャーや味わいのバランスを分析する。一連の行為には日常では使われない繊細な感覚が要求されるため、五感を総動員することが欠かせない。そのため、この経験がもたらす効果はワインの理解だけに留まらないのだ。

「ワインだけでなく、料理の味わいを感じ取る力にもつながりますね。また、自分に向き合い続けることを繰り返すことによって、結果として自己理解を高め、人とのコミュニケーション力の向上や自分自身の内省にも役立つと感じています。一言で言えば、ブラインドテイスティングをすることで『あらゆるものを感じる力』が飛躍的に伸びるのです」。

外部からの情報を鵜呑みにせず、自分自身の感覚で物事の本質を捉える力が向上することによって自分自身を信じられるようになることが、ブラインドテイスティングがもたらす最大の恩恵なのだという。

「ブラインドテイスティングの素晴らしさと、ワインを知ること以外にも素晴らしい効果があることを、ぜひ皆さんにも体験していただきたいと思っています」。

『感覚と思考を統合するための「クンクンメソッド」 』

ブラインドテイスティングの能力をいかに高めるかを追求する中で、鈴木さんが自らの経験に基づいて確立した独自の手法が「クンクン・ブラインド・メソッド(以下クンクンメソッド)」だ。
「感覚」と「思考」を組み合わせたオリジナルメソッドについて、詳しく紹介しよう。

▶︎「考える」より先に「感じる」ことの重要性

ブラインドテイスティングをおこなう際、多くの人が陥りがちな罠があると鈴木さんは指摘する。

「『このワインを当ててください』と言われると、多くの人は『感覚』よりも先に、まず『思考』が働いてしまいます。最初は私自身もそうでしたね」。

知識に基づいて答えを先に探ろうとする行為が先入観を生み、正確な判断を妨げる原因になってしまう。そのため、考えるよりも先にまずワインを感じることが重要だという。その上で、自分の知識を引き出して判断するのだ。鈴木さんが提唱する「クンクンメソッド」は、「感じる」プロセスを重視したアプローチである。

最初は、「考えないこと」を意識する。答えを先に探ろうとして「これは何だろう」と考えるのではなく、ワインのありのままを感じて自分の言葉にするのだ。先入観を捨てて、ワインの全体像を言語化してみる。そして、言語化された情報をもとに、初めて仮説を立てる段階に入るのだ。

「まずは香りを嗅いで、口に含む前に自分の言葉をワインの知識と照らし合わせて考えます。『この色合いで、この粘性でこの香りだから、シュナン・ブランもしくはシャルドネか?』といった具合です」。

仮説を立てた後にようやくワインを口に含む。仮説通りの味わいであるかを確認するためのステップだ。この段階で初めて、答えを絞り込んでいく。これが「クンクンメソッド」一連の流れである。

「『とにかく飲まないことには何もわからない』と言っていた人も、訓練を重ねることで、驚くほど自然に『クンクンメソッド』が実践できるようになっていきますよ」。

鈴木さん自身は現在、口に含む前に立てた仮説と口に含んだ後に導き出した自身の答えが、8~9割は変わらないレベルに達しているという。これまでに推定1万アイテムものワインをブラインドテイスティングしてきた経験が、精度を上げるのに役立っているのだ。

「この方法を自分に課すことで、嗅覚がより鋭敏になります。細かく香りを感じる力が養われ、香りだけで非常に多くの情報を得られるようになってくるのです」。

▶︎テイスティングコメントは自分自身の言葉で

ブラインドテイスティングの能力を高めるためのポイントのひとつに、メモを取ることが挙げられる。メモの取り方にはコツがあるそうだ。

「必ず『自分が感じた言葉』で記録してください。ソムリエ試験の解答欄にある言葉をそのまま書くことはおすすめしません」。

多くの学習者は、「りんごのような」「花梨のような」「白い花のような」といったソムリエ試験のテイスティングコメントでよく使われるキーワードに引っ張られがちだという。しかし、教科書的な表現に囚われてはいけない。

「嗅いだこともない果物の香りと紐付けようとしても、本当に理解することはできないでしょう。自分が知っているものや経験したことと紐づけて捉えることが何よりも大切です」。

メモを見返したときにワインの記憶が鮮明に蘇ってくるような自分自身の言葉で記録しておけば、テイスティングメモは「自分の確かな感覚の証」として何よりも大切な情報になる。

鈴木さんも、教科書的ではない表現を使って自分のテイスティングメモをとっているのだとか。「押し入れ」「アスファルト」「プロテイン」など、独特な表現も躊躇なく使う。自分自身の感覚に正直に向き合い、自分の引き出しから表現を取り出して使うことこそが、本質的な理解への近道なのだ。

『サイエンスとの融合 醸造プロセスへの理解がワインを知る近道になる』

ブラインドテイスティングを通して「感じる力」を磨き続けた鈴木さんの探求は、やがて「ワイン科学」という新たな領域へと広がっていった。感覚と科学が結びついたとき、ワインに対する理解は飛躍的に深まったという。

鈴木さんがワインを理解するうえで大切にしているポイントについてお話いただいた。

▶︎科学が解き明かすワインのメカニズム

ブラインドテイスティングに取り組むようになってから、ワイン科学を掘り下げて勉強して、ブログ「情熱とサイエンスのあいだ」を書き始めた鈴木さん。現在では「ワインサイエンス」と検索すると上位に表示されるまでになった。

ブログのきっかけは、ワインエキスパートの上位資格である「エクセレンス」を取得した時だった。試験対策としてワインサイエンスに関する論文を読み込む中で、ある重要な事実に気づいたのだ。

「ワインの味わいの違いを理解するには『どんな醸造工程を経ているのか』という、ワイン造りの最後の工程である醸造を理解することがブラインドテイスティングにおいても重要なのだと気づきました。なぜなら、香りや味わいの違いには科学的裏付けが存在するからです」。

最初は言葉にしづらかった香りも、科学的な知識と結びつくことで正体が明らかになっていった。ワインから感じる感覚と科学には、密接なつながりがあったのだ。この事実を理解することで、ワインを説明する際に「なぜこういう香りなのか」を、ロジカルに説明できるようになったという。

▶︎醸造の視点から見えるもの

醸造工程がワインの味わいに影響を与えている事がわかる例が、「シャブリ」に関する分析だ。一般的にシャブリは「ミネラリー」だと表現されることが多い。その理由としては、「土壌」や「冷涼な気候」などが挙げられるが、もっとシンプルで本質的な理由があると鈴木さんは指摘する。

「最もわかりやすい理由は、『樽を使っていないから』という醸造上の選択にあります」。

一般的なシャブリは、ステンレスタンクでアルコール発酵をおこない、滓(おり)とともに半年ほど静置させてから瓶詰めされる。樽を使っていないため、当然、樽由来の香りは付与されない。さらに、滓とともに長期間接触させるため、果実の香りが前面に出てくることがない。その結果、果実や花の香りを感じにくくなる。このように明確な特徴に乏しい場合の風味を表す表現として「ミネラル」という表現が使われやすくなるのだという。これは絵に例えると水墨画の余白のようなものである。

一方、温暖な産地のシャルドネで樽を使用する場合、樽由来のヴァニラやトロピカルフルーツなど様々な香りが複雑に感じられるだろう。この場合、「ミネラル」という表現はあまり使われない。それ以外に明確な特徴を持つ香りがあるためだ。余白の少ない色彩豊かな油絵に例えられるとわかりやすいだろう。

つまり、目立った香りがないからミネラルと表現する傾向があるというわけだ。これは、醸造工程の違いが明確に香りに出ている一例だという。鈴木さんはさらに、滓との接触がもたらす影響についても言及する。

「滓は酸素を吸収する性質があります。滓が残っていると瓶の中の酸素を吸収し、ワインが還元状態になります。すると、硫黄や硫化水素のようないわゆる『還元臭』が出やすくなるのです。滓が残ったナチュールワインと呼ばれるワインには還元臭が出やすいのはこのためなのです」。

このように、ブラインドテイスティングで感じる微細な香りの差は、醸造プロセスと密接に関係している。感覚を研ぎ澄ますことで科学的な理由を見つけ、科学的な知識を深めることで感覚的な理解を深める。この両輪が、ワインの本質に迫るために不可欠なのである。

『ブラインドテイスティングで自社ワインを知る』

鈴木さんは、山梨県甲府市で3ヶ月に1回ブラインドテイスティングの勉強会を開催している。ここ最近、ワイン生産者の参加が増えているそうだ。


ワイン生産者がブラインドテイスティングに取り組む意義について尋ねてみた。

▶︎世界のワインを知り、自社ワインのポジションを明確に

「ブラインドテイスティングの勉強会に参加するワイン生産者さんは、『自分の造るワインを客観的に正しく理解したい』という目的の方が多いようですね。自分たちのワインの特徴をはっきりと説明しやすくなるので、ブラインドテイスティングを学んでいただくのは非常におすすめですよ」。

多くのワイン愛好家は、海外のワインに親しんでいる。一方、日本ワインの品質が向上しているとはいえ、国内の消費では海外ワインのシェアにはまだ達していない。そんな状況の中、自分たちのワインをどのように説明すべきか?最も伝わりやすいのは「海外ワインの具体例を挙げる」ことだ。

「『ドイツのジルヴァーナー(あるいは、赤ワインのシュペートブルグンダー)のような冷涼な印象のあるワインですよ』といったように、具体的な比較対象を示すことで、愛好家は味わいをイメージしやすくなります」。

先日、ブラインドテイスティングの場で大分のワイナリー「安心院葡萄酒工房」の「安心院ワイン アルバリーニョ」が出題されたそうだ。鈴木さんは、ポルトガルのアルバリーニョのような印象だが、全体的にはよりトロピカルで、南イタリアのフィアーノっぽさもあるなと感じたという。いずれの産地も国土の南に位置しており興味深い。

このように、知っているワインと紐付けて印象を整理することは、生産者自身にとっても、違った切り口で自社のワインを見るきっかけになる。つまり、世界の多様なワインを知ることは、自社ワインの「現在地」を知ることにつながるというわけだ。

「世界のワインを理解していれば、自分たちのワインのポジションが見えやすくなります。一般のお客様だけでなく、有識者に対しても自社のワインの味わいを的確に説明できるようになりますよ」。

▶︎ワインを「伝える」ために必要なこと

日本ワインは1アイテムあたりの生産量が少ないものが多いため、プレミアム化しやすい一方で、素晴らしさを広く人々に伝えることが難しくなる側面も持つ。ワインを紹介する際には、どのような工夫が効果的なのだろうか。

「自社ワインをアピールする際に重要なのは、『ワインを正確に描写すること』です。しっかりと味わいが記載されたワインの方が消費者はイメージしやすいですし、飲んでみたいと思うはずです。また、『多くの人が理解できる客観的な表現』にすることも必要です」。

自社ワインの味わいや強みを正確に表現するためには、主観での理解と客観的な表現が欠かせない。

「最初に、ブラインドテイスティングを通じて、主観的な言葉で自社ワインを表現します。複数人でおこない、ソムリエやエキスパートなどの専門家が参加するとなおよいでしょう。その上で、客観的な伝わる表現に丁寧に置き換えていくのです」。

ワインを表現する際におすすめの方法として提案してくれた方法が、「理想形」を設定することだ。

「まず、自社ワインの『あるべき姿』を定めてみるのはどうでしょうか。設定した目標と比較して、『今年はこういう出来になった』と表現すると、わかりやすくなるでしょう。例えば、『今年は雨が多かったので、水分量が多く軽い味わいになった』といった具合です。ホームページやSNSを活用して、ワインの味わいを詳しく発信するのもありがたいです。その際、銘柄単位の説明ではなく、各ヴィンテージごとの印象を表現すると情報が正確になり理解に役立ちます」。

例えば、栃木県のワイナリー「ココ・ファーム・ワイナリー」の販売サイトが参考になる。毎年のワインのデータを詳細に公表する姿勢は、必ずや消費者の心を掴むだろう。

また、ワインをどのように説明したらよいかピンとこないという悩みを持っている生産者は、「味の要素」と「程度」に着目してみるとよいそうだ。

「例えば『甘酸っぱい』という表現だけでは、『甘いの?酸っぱいの?どっちが強いの?』となってしまいます。その場合には、『ほどよい酸とわずかな甘み』などに変えるだけでも印象が変わりますよね。どの風味がどの程度感じられるのかという点を、『五味』の要素を使って具体的に表現してみてください」。

生産者が自らのワインを深く理解し、的確な言葉で表現することが、消費者の信頼を獲得して選ばれるワインとなるための第一歩なのかもしれない。

『未来への挑戦  ブラインドテイスティングのさらなる可能性』

鈴木さんは、将来に向けてブラインドテイスティングに関する協会の発足を考えている。目指すのは「ブラインドテイスティングという手法を用いて、人間の五感を養っていく」こと。ワインの技術習得だけでなく、「感覚学習」の一環としての位置付けである。

自身の活動をさらに発展させ、ブラインドテイスティングの価値を広く社会に伝えるための新たな挑戦だという。今後に向けた構想と、ブラインドテイスティングの未来について伺った。

▶︎「五感を養う」ための協会の活動

「今後、単なるワインの技術としてだけでなく、ブラインドテイスティングを通して人生をより豊かにすることを目標にした活動をしていきたいと考えています」。

具体的には、ブラインドテイスティングの全国大会の定期開催やセミナー、優れた技術を持つテイスターへの資格制度も検討しているという。

さらに、「ブラインドテイスティングの効果の科学的な解明、人間の認知機能にとってよい影響があるかを研究する」といった学術的なアプローチも視野に入れる。協会を発足することで日本全国にブラインドテイスティングを広めたいと考えているのだ。

「ブラインドテイスティング大会やセミナー開催は首都圏に集中しているため、地方では参加する機会がないという声を多く聞きます。そのため、地域を巻き込みながら、全国どこにいてもブラインドテイスティングに取り組みやすい環境を整備していくつもりです。日本が世界に先行できる分野だと言えるでしょう。生産者の方々にも是非チャレンジして頂きたいです」。

▶︎本質を見抜く力を育み、価値基準を変革する

鈴木さんが抱くブラインドテイスティングへの思いは、どこまでも純粋だ。

「いちばんの願いは、ブラインドテイスティングを面白いと思ってくれる人を増やしたいということですね。ブラインドテイスティングができるようになると、物事を多角的に見ることができるようになり、ワインをより本質的に楽しめるようになりますよ」。

ワインはエチケットや価格といった外部情報によって評価されがちだ。しかし、ブラインドテイスティングの能力が身につけば、雑多な情報に惑わされず、ワインそのものの価値を見抜くことができるようになる。

「本当のよさ」や「自分が好きなもの」を理解することは、自分自身を深く理解することにつながる。ブラインドテイスティングは、人生を豊かにするための力を秘めているのかもしれない。

▶︎ブラインドテイスティングの新たな潮流

インタビューの最後に、現在起きているという興味深い現象について聞くことができた。「Z世代」を中心とした若者世代が、ブラインドテイスティングに関心を示しているという事実だ。

YouTubeの「ブラインドテイスティングチャンネル」という番組に出演している鈴木さん。活動する中で、YouTubeがきっかけで、ブラインドテイスティングそのものに興味を持つ若い視聴者が一定数いることがわかってきたという。

「従来は、ワインを勉強して資格を取得する中でブラインドテイスティングに取り組むというのが一般的な順序でした。しかし今、若い世代では逆転現象が確認できるのです。興味を持ったブラインドテイスティングに挑戦するうちに、だんだんとワインに興味を持つようになり、ワインを勉強してみようと考える人が増えているのです」。

若年層の取り込みに苦戦するワイナリーも多い中、Z世代もブラインドテイスティングに興味を持っているという事実は、日本ワイン業界にとっても大きな希望となるはずだ。ぜひブラインドテイスティングを新しい接点として、若い世代に働きかけてみるのはどうだろうか。

『まとめ』

深い探究心をもってブラインドテイスティングの技術を極める中で、さらに本質的な価値を見出してきた鈴木さん。ブラインドテイスティングへの熱量と科学的な冷静さを兼ね備えた言葉は、「感じる力」の大切さと、「考えること」の価値を教えてくれる。

感覚とサイエンスを融合させ、ワインに対する理解を深め続ける挑戦は、日本ワイン業界全体に新たな視点をもたらすだろう。生産者が自らの「感じる力」を磨き、ワインに向き合うことが、日本ワインの未来を切り拓くためのひとつの鍵となるに違いない。


「Terroir.media」は、これからも日本ワインの普及を目指して、日本全国のワイナリーの紹介記事を掲載して発信していきます。
今後の記事もどうぞお楽しみに!

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