『de Montille & Hokkaido 』フランス・ブルゴーニュの生産者が表現する、函館のテロワール

今回紹介する「de Montille & Hokkaido(ド・モンティーユ&北海道)」は、北海道・函館にあるワイナリーだ。経営母体は、フランス・​​ブルゴーニュ地方で300年の歴史を持つワイン生産者「Domaine de Montille(ドメーヌ・ド・モンティーユ)である。

現当主を務めるÉtienne de Montille(エティエンヌ・ド・モンティーユ)氏が、ワイン造りをする場所として新たに選んだのが北海道だった。函館でのぶどう栽培に挑戦するため、2016年にプロジェクトを立ち上げたのだ。

フランスの銘醸地であるブルゴーニュの生産者は、北海道でどんなぶどうを栽培し、どんなワインを造っているのだろうか。今回は、de Montille & Hokkaido設立までの経緯と栽培・醸造におけるこだわりについて、de Montille & Hokkaidoジェネラルマネジャーで、農地所有適格法人「株式会社ベルヴュ」の代表取締役も務める矢野映さんにお話を伺った。

『de Montille & Hokkaidoの設立まで』

まずは、de Montille & Hokkaido設立までの経緯を詳しく見ていきたい。

北海道でワイン造りを始めることになったのは、2014年頃にド・モンティーユ氏が来日中、ある日本人株主から投げかけられたひと言がきっかけだった。

「『君のところのワインは美味しいけれども、日本でも美味しいワインを造ることはできるのか?』と尋ねられたそうです。数年後に60歳を迎えようとしていたエティエンヌは、新たなチャレンジをしてみたいと考えたようです」。

▶︎北海道での新たな挑戦

かねてから新しい場所でワイン造りをするという構想を持っていたド・モンティーユ氏は、日本でのぶどう栽培を決意。また、ほぼ同時期にアメリカ・カリフォルニアでも同様のプロジェクトを開始した。

日本でぶどう栽培をする土地を探す中で、北海道、山梨、長野など、日本にあるいくつかのワイン産地に注目し、実際に足を運んで現地調査をした。その中で、ド・モンティーユ氏が特に興味を持ったのは北海道だった。

「北海道の冷涼な気候がピノ・ノワールとシャルドネの生育に適していると考えたようです。また、北海道産ワインをいくつか飲んで、自分好みのワインができる土地であると感じたことが決め手になったと聞いています」。

北海道の気候に可能性を見出し、北海道の生産者と共に道内各地を視察して回ったド・モンティーユ氏。畑の候補地を探す段階で重視したのは、日照や気象などの栽培条件が希望を満たしているかどうか。北海道のさまざまな地域を検討した中で、自分がやりたい栽培に特に適している土地だと判断したのが道南エリアだった。

ド・モンティーユ氏はフランスから気象学者、栽培学者、土壌学者を呼び、1年かけて畑の候補地を調査。そして、自らが希望するぶどう栽培に適している土地であるとの調査結果を受けたのだ。函館なら素晴らしいワインができるという確信を持ったド・モンティーユ氏は、de Montille & Hokkaidoのプロジェクトを本格的に始動した。

▶︎函館でぶどうを育てる

以前からDomaine de Montilleのワインを輸出していたため、日本に足を運んだことは何度もあったド・モンティーユ氏だが、実際にワインを造るとなると話は別だ。そのため、綿密な調査と準備をおこなった上で、確信を持って畑作りをスタートさせた。ここでは、de Montille & Hokkaidoの自社畑の特徴を見ていこう。

de Montille&Hokkaidoの自社畑で栽培しているのは、フランス・ブルゴーニュを代表する品種である、ピノ・ノワールとシャルドネだ。気温や日照量などに大きく左右されるピノ・ノワールの栽培適地であることが、函館でのぶどう栽培に踏み切った大きな理由だった。ピノ・ノワールとシャルドネで、函館のテロワールを表現する取り組みを始めたのだ。

「ブルゴーニュのピノ・ノワール、シャルドネとは異なる可能性を北海道で探すというのも、de Montille&Hokkaidoのチャレンジのひとつです」。

自社畑は函館の市街地よりも高い場所にあり、標高は200〜280mほど。ゆるく傾斜した土地で、火山性の土壌は粘土質だ。地表から30〜50cmほど掘ると、火山由来の岩が含まれた黄色やオレンジ色がかった色合いの粘土層が出てくる。

自社畑を函館にした決め手のひとつに、積雪量の少なさがある。北海道なのでもちろん雪は降るのだが、道内では特に雪が少ない地域で積雪は50〜70cmのみ。そのため、フランスと同じような栽培方法が採用できるのが魅力だった。

雪が多い地域では、樹を地面に対して平行に近い角度になるよう植樹し、雪が降り始めると樹を雪に埋めて越冬することがある。だが、ド・モンティーユ氏が希望したのは、あくまでもブルゴーニュと同様の栽培手法をおこなうことだった。その点、函館では剪定のタイミングもブルゴーニュと同じでよい。冬の間は樹液は地中にあるため幹はカラカラになっており、地面が凍らなければ凍害に合う恐れもないそうだ。


「ぶどうの剪定作業は、樹液が下に降りるのを待ってからおこなう必要があります。樹液が幹にあるうちに剪定すると、細菌などに感染するリスクが高まるためです。ブルゴーニュでは樹液が下がっている冬に剪定するのが一般的ですね」。

函館は海沿いの街で、冬暖かく夏涼しい気候が特徴だ。海風や山風も吹くが、寒暖差があまりなく、降雨量も決して少なくはないため、これまでぶどう栽培はあまりおこなわれてこなかった。

だが理論上は、年間積算気温と日照量が十分に確保できれば、ぶどうの生育には問題ない。徹底した分析をもとに始まった、de Montille&Hokkaidoの新たな挑戦。自社畑に植樹をおこなったのは、2019年のことだった。

『de Montille&Hokkaidoのぶどう栽培とワイン醸造』

続いては、de Montille&Hokkaidoがぶどう栽培とワイン醸造をする上でこだわっている点について紹介したい。

「私たちのぶどうはまだ樹が若く、色々な意味で保護することが必要です。化学的な肥料や除草剤は使用せず、できるだけ自然な方法を採用しているのがこだわりですね」。

Domaine de Montilleは、ブルゴーニュのぶどう栽培でビオディナミを実践している生産者だ。土壌を大切にし、ナチュラルな栽培が何よりも大切であるという真髄は、函館でぶどうを育てるde Montille&Hokkaidoにもしっかりと引き継がれている。

ブルゴーニュと函館のテロワールの違いは、長い時間をかけて今後少しずつ明らかになっていくことだろう。

▶︎函館産ぶどうでのワイン造り

函館の自社畑での収穫作業は、10月10日頃にスタートする。8月から9月上旬にかけて収穫をおこなうブルゴーニュよりも、1か月ほど遅い。そのため、ド・モンティーユ氏はブルゴーニュでの収穫を終えてから日本に足を運ぶことが可能だ。まずはピノ・ノワール、続いてシャルドネの収穫に取りかかる。

函館のぶどうに対するド・モンティーユ氏の評価は「きれいなぶどう」。糖と酸、皮や種の成熟度合いが、ワインにするのに最適な状態であるかどうかを確認しつつ丁寧に収穫する。

de Montille&Hokkaidoでは、2022年までは北海道・余市町などの買いぶどうを使って醸造してきた。そのため、2023年の醸造が函館産ぶどうを使った初めてのヴィンテージとなる。

「瓶詰めしてから数か月寝かせることで、味が落ち着きます。函館のぶどうならではの酸がうまくキープできれば、味わいのバランスが優れたワインになるでしょう。日本ワインを表現する際に使われることが多い『旨み』や、余市町のワイナリー『ドメーヌ・タカヒコ』の曽我貴彦氏が『出汁』と表現するような味わいが、函館のぶどうにも感じられますね。ブルゴーニュのぶどうはもっとミネラルっぽさが強いので、そこが日本のぶどうと異なる点だと感じています」。

▶︎de Montille&Hokkaidoが目指すワイン像

2023年に収穫した自社畑のぶどうを使ったワインは、2025年冬頃のリリースを予定している。2023年ヴィンテージのピノ・ノワールのワインは、ブルゴーニュよりもハーブやスパイス感が強めのイメージ。しかし、この個性がヴィンテージならではの特徴なのか、函館のテロワールの特性であるのかはまだわからない。今後少しずつ、函館のぶどうの特性が明らかになっていくのが楽しみである。

de Montille&Hokkaidoが目指すワイン像は、ずばり「ド・モンティーユ氏好み」のワイン。繊細でエレガントかつ酸がしっかりとあり、芯が通った味わいが望ましい。そして、熟成にも耐えうるワインを造ることがde Montille&Hokkaidoの使命だ。

「de Montille&Hokkaidoの醸造は、基本的な考え方はブルゴーニュの製法とかなり近いですね。衛生状態のよいぶどうをきれいに選別して使うのが基本です。畑で選別して、タンクに入れる前に選別台で再度チェックします。欠陥臭の原因となる揮発酸が出ているものなどは丁寧に除去しています」。

厳しくチェックしたぶどうのみを使用するため、選果は非常に手間がかかる。今はまだ収量が少ないからよいものの、ひとカゴずつきっちりと確認してから仕込むのは大変だ。しかし、欠かせない工程なのだ。

2023年以降造っているワインは、自社栽培のピノ・ノワールとシャルドネ、買いぶどうのケルナーである。

ピノ・ノワールは選別後に大型「開口発酵おけ」で発酵させる。できるだけ除梗せず、3分の2は全房のまま使用してアルコール発酵後にプレスをおこなう。また、シャルドネは選別後に全房のまま搾汁し、圧搾後の果汁を静置して不純物を沈殿させる「デブルバージュ」をおこなってから樽発酵する。de Montille&Hokkaidoのワインは全て、自然に存在する天然酵母で発酵させているのが特徴だ。

▶︎世界に向けてワインを造る

de Montille&Hokkaidoの造り手は、どんな人にワインを飲んで欲しいと考えているのだろうか。

「ワインが好きな方に飲んでいただきたいです。我々のワインの味を好んでくれる方が、一緒に過ごしたいと考える人と共に過ごす大切な時間に、de Montille&Hokkaidoのワインを飲んでくださると嬉しいですね」。

de Montille&Hokkaidoのワインのターゲットは、もちろん世界だ。ド・モンティーユ氏は、函館産ワインを早くフランスに持っていきたいと考えている。将来的には、世界37か国にいるDomaine de Montilleのインポーター向けに販売していく予定だ。

▶︎おすすめのペアリングを紹介

de Montille&Hokkaidoのワインのおすすめのペアリングを尋ねたところ、海産物はもちろん、近隣で生産されている生ハムやパテなどの豚肉の加工品や、地元産の牛肉・豚肉がよく合うと紹介いただいた。

「シャルキュトリは、赤白どちらにも合うのでおすすめですよ。土地のものは、育っている環境が同じなので、やはり合わせやすいですね。de Montille&Hokkaidoのワインは100%天然酵母を使ってるので、きっと相性がよいのでしょう」。

函館の海の幸と合わせるなら、シャルドネには火を通した魚介類や、脂が乗った魚のカルバッチョがマッチする。また、ピノ・ノワールにはマグロの刺身や穴子がよいと挙げていただいた。

「函館はさまざまな魚介が楽しめる土地です。de Montille&Hokkaidoのワインは、赤白どちらも魚介によく合いますよ。ワイナリー併設のレストランでは地元食材を使った和洋折衷のビストロ料理を提供していますので、ぜひ足を運んでde Montille&Hokkaidoのワインと共に楽しんでください」。

『de Montille&Hokkaidoの目指す未来』

最後に紹介するのは、de Montille&Hokkaidoのこれからについて。函館産のぶどうで造ったワインを、満を持してリリースするde Montille&Hokkaido。これから先は、どのような取り組みを予定しているのだろうか。

また、日本ワインの未来についてもお話いただいたので、あわせて紹介したい。

▶︎de Montille&Hokkaidoのこれから

「2023年の年末にワイナリーが竣工して、開所式をとりおこないました。今後は、淡々とぶどう栽培とワイン醸造に取り組んでいくつもりです。この10年で日本のワイン造りは急速にクオリティが高くなったと感じています。よいものを造るという作業を日々続けて、次の世代に引き継ぐのが目標です。まずは、未来までずっと繋いでいける礎作りを目指します」。

de Montille&Hokkaidoのスタッフには、若いメンバーが多い。みんな今の仕事が気に入って、楽しそうに働いてくれている人ばかりですよ、と矢野さんは微笑む。ブルゴーニュで長い歴史を刻んできた生産者であるDomaine de Montilleが代々受け継いできた哲学と志を、日本の地で若い人たちが引き継いで行くことには、大きな意味があるだろう。

de Montille&Hokkaidoでは、平日9〜16時にワイナリー見学が可能だ。また、ディナータイムのみ営業しているレストランを利用をする場合、食事前に簡単な見学ができるという。いずれも予約制なので、事前に問い合わせが必要である。

「de Montille&Hokkaidoのワインを飲んでみたいという方は、ぜひレストランにお越しください。ワインの一般販売はまだおこなっていませんが、レストランでは料理と共に味わっていただけます」。

▶︎ぶどうとワインの多様性が受け入れられる時代

de Montille & Hokkaidoでジェネラルマネジャーを務める矢野さんは、ド・モンティーユ氏とは30年近くの付き合いになる。Domaine de Montilleのワインをフランスから日本に輸入する商社にいた矢野さんは、de Montille & Hokkaidoのプロジェクトを立ち上げる際、手伝って欲しいとド・モンティーユ氏から声をかけられたという。

長年、世界のワインに触れてきた矢野さんは、日本ワインは新たな時代に入ったことを感じている。

「最近は若い人が熱心に日本でのワイン造りに取り組んでいますし、素晴らしい経験をお持ちの方も多いので、非常に頼もしいですね。日本のテロワールは、世界でも珍しい土壌や気象条件を有しています。これだけ湿度が高い畑で栽培している国はあまりないため、できるワインにも特徴が出るのです。『旨み』や『出汁』といった独特のものになるのもそのためでしょう」。

ワインは嗜好品なので、独自の特徴を生かしたワインができるのは強みでもある。品種ごとの強みを引き出す醸造をして、時間をかけて努力すれば、世界から注目される地域になり得るのではないかと考えている矢野さん。

「人間が多様であるように、ぶどうもワインも環境や風土、文化が違うところで育ったものには、独自の個性が強く出るはずです。ワイン愛好家の多くが、そのような個性を楽しむ気持ちを持っているでしょう。ワインの世界での進歩というと、数百年単位の話なのでまだ先の話かもしれませんが、日本ワインの将来が楽しみです。既存のワイナリーも新規のワイナリーも、みんなで力を合わせて日本のワイン産業を盛り上げていきたいですね」。

『まとめ』

ブルゴーニュで300年の歴史を紡ぎ、時代とともに進化を続けてきたDomaine de Montilleにとって、北海道・函館でのぶどう栽培とワイン造りは大きな挑戦だった。日本ワインの豊かさと可能性に深く感銘を受け、ブルゴーニュのような繊細なピノ・ノワールやシャルドネの未来を北海道の冷涼で清らかな気候に見出したというド・モンティーユ氏。

日本で初めて、外国のワイン生産者が自らの手で畑を拓くという試みは、今後どのような姿を見せてくれるのだろうか。de Montille & Hokkaidoがこれから、日本と世界に向けて発信するワインを心待ちにしたい。

矢野さんは、「ワインは気難しいお酒というイメージを捨てて気軽に楽しんで欲しいと、これからワインを飲んでみようという人たちに伝えたい」と話してくれた。

「最近の若い人には、ワインは飲むけれどそれほど詳しくはないという方もいらっしゃいますが、本当にそれでよいのです。昔はワインといえばオタクの人がウンチクを語りながら飲むお酒のイメージでしたが、今は時代が変わりました。若い人がそれほど深いこだわりなく飲む時代なのです。老若男女ワインを楽しみましょう」。

ワインをカジュアルに楽しむ人たちがこれからも飲み続けてくれれば、ワインは気難しいという印象も次第に変わっていくだろう。合わせる料理に悩まなくても、日本のワインは和食と合わないということはほぼないため、固定観念にとらわれず楽しんでほしいと矢野さんは言う。

長い伝統と確かな技術を礎に持つde Montille & Hokkaidoが提案してくれる、肩肘を張らない自由なワインの楽しみ方は、日本ワインがこれから進むべき道を示唆しているのではないだろうか。

基本情報

名称de Montille & Hokkaido(ド・モンティーユ&北海道)
所在地〒041-0801
北海道函館市桔梗町
アクセスGoogleマップ
HPhttps://www.demontille-hokkaido.com/

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