今回紹介するのは、山梨県笛吹市一宮町にある「アルプスワイン株式会社」。日本におけるワイン発祥の地として知られる土地で、1962年から続く老舗ワイナリーだ。
国内やアジアで開催されているワインコンクールにおいて多数の受賞歴があるワインは、専務取締役で醸造責任者を務める前島良さんが手がけている。
前島さんは、マスカット・ベーリーAのワイン醸造の改良分野で、文部科学大臣賞を受賞した実績を持つ人物だ。アルプスワインの醸造スタイルは、基本に忠実でクリーンであること。親しみやすく、飲みやすい味わいのワインを目指している。
アルプスワインのこれまでの道のりと栽培・醸造方法、おすすめのワインについて前島さんにお話を伺った。詳しく紹介していこう。
『アルプスワインの歴史とぶどう栽培』
アルプスワインの創業者は、前島さんの祖父・前島福平(ふくへい)氏。もともと養鶏や米問屋を営んでいたが、地域のぶどう農家たちが立ち上げた醸造所を引き継いだことから、ワイン醸造を生業とするようになった。
笛吹市は果物栽培を手がける農家が多い土地柄で、ぶどう農家が立ち上げた醸造所が地域にいくつもあってワイン造りが盛んにおこなわれていた。創業者の福平氏は大変なお酒好きで、ワイン造りに興味を持ったそうだ。
▶︎自社管理畑での栽培をスタート
アルプスワインでは、創業当初はぶどうを自社栽培していなかったため、近隣の農家から購入してワインを製造していた。使用していたのはデラウェアや甲州、マスカット・ベーリーAなどの品種だ。
自社栽培を開始したのは2000年頃のこと。ワイン特区制度を活用して、ワイナリーが畑を借りられるようになったタイミングだった。アルプスワインの自社管理畑では、土地に合う品種を探るために試験栽培もおこなっている。
「醸造に使うぶどうの栽培と並行して、自社管理畑は試験農場としても活用しています。今までこの地域では扱われなかった品種を栽培することで、周りの農家さんに新たな可能性を広める役割を担っているのです」。

▶︎自社管理畑の特徴と栽培している品種
続いては、アルプスワインの自社管理畑の特徴と、栽培している品種にスポットを当てよう。
自社管理畑は川沿いに位置しており、標高は350~400mほど。山梨県は年間を通して雨が少なく、日照時間も長いためぶどう栽培に向いている地域だ。
「自社管理畑は昔、大きな川だった場所にあります。そのため、畑の土壌は扇状地だったことがわかる特徴が強いですね。石が多く含まれており、水はけがよい土地です」。
栽培している品種は、以下のとおりだ。
- マスカット・ベーリーA
- シャルドネ
- メルロー
- カベルネ・ソーヴィニョン
- シラー
栽培量が最も多いのは、地域で長く栽培されてきた歴史を持つマスカット・ベーリーAである。もともとマスカット・ベーリーAが植栽されていた畑をそのまま引き継いだ区画には、樹齢25年を超える樹もある。

▶︎醸造に適したマスカット・ベーリーAを栽培
アルプスワインの自社管理畑のマスカット・ベーリーAは、「赤軸(あかじく)」といわれる、茎の部分が赤い樹である。畑を取得する際に、あえて「赤軸」のマスカット・ベーリーAがある区画を借りたという。
「マスカット・ベーリーAは、一般的には茎が青い品種です。赤軸の樹は色が悪いと言われて、生食用には向きません。しかし、ワイン用としては品質が高いと感じています」。
栽培管理の方法は茎が青いマスカット・ベーリーAと同じだが、「赤軸」ならではの個性をワイン醸造で生かしているという。
さらに今後は、粒が小さいマスカット・ベーリーAが収穫できる区画の取得を検討している。粒のサイズがデラウェアほどで凝縮感のある味わいを、ワイン造りに活用したいと考えているのだ。
▶︎気候変動に対応可能な国際品種を選定
マスカット・ベーリーA以外の4品種は、前島さん自身が選んだ品種である。
「海外で多く作られているワイン専用品種を地元でも作ってみたいと思って選びました。シラーは、私が個人的に好きな品種なので、特に思い入れがありますね」。
アルプスワインが自社管理畑を取得した2000年頃は、今後の温暖化が懸念され始めたころでもあった。そのため、温暖な気候でも育てやすい品種を選ぶことを心がけたそうだ。品質と収量が常に安定している品種もあれば、年によって変動が大きい品種もある。
「カベルネ・ソーヴィニョンは色付きが年によって変わるため、ブレンドに活用しています。メルローは毎年平均して品質のよいぶどうが採れますよ」。
安定した品質が期待できるメルローだからこそ、世界中で作られているのだと日々実感しているそうだ。

▶︎ぶどう栽培におけるこだわり
アルプスワインの自社管理畑では、農場スタッフが栽培管理を担当。密にコミュニケーションを取りながら分業制で取り組んでいる。ぶどうが育ちやすい環境を整えるために、気づいたことは積極的に意見を出し合っているそうだ。
「スタッフとの会話を大切にして、方向性は話し合いながら決めています。ぶどうや天気に合わせた改善点や、新たにチャレンジしたいことなどを密に共有しているおかげで、品質が高いぶどうを育てることができています」。
アルプスワインでは、ほとんどの品種が棚仕立てで、仕立て方は「一文字長梢栽培」を導入。棚仕立てはフルーツゾーンが地面から高い位置にあるため、房が湿度によるダメージを受けにくくなるというメリットがある。
「以前は『一文字短梢』で栽培していたのですが、数年前に『一文字長梢』に変更しました。短梢だと枝ごとに複数の房がひしめき合っていたため、改善目的で長梢にしてみたのです。状況が少し解消されて、よい結果が出ています」。
前島さんに栽培におけるこだわりを伺うと、「当たり前のことを当たり前にやるだけです」という答えが返ってきた。
「特に難しいことはしていません。私たちの仕事は、ぶどうが育ちやすくなるように畑の環境を整えることです。水分量のコントロールを徹底するなど、基本を大切に心を込めて栽培しています」。

『アルプスワインのワイン醸造』
アルプスワインのワインは、ラインナップが20種類以上ある。醸造を担当している前島さんが目指すのは、食事に寄り添うワインだ。前島さん自身も、ワインを飲む時には必ず食事と合わせて味わうという。
「ワイン単体で目立つ味わいではなく、食事と合わせて飲んでいるうちに、気がついたらつい1本空けてしまうようなワインが理想です。若い世代にワインを飲んでもらいたいという思いも強いですね」。
アルプスワインが醸すワインの魅力に迫っていきたい。

▶︎「FOX VILLAGE」シリーズ
アルプスワインのメイン商品である「FOX VILLAGE」シリーズは、アルプスワイン株式会社の創業60周年を記念して、2022年に立ち上げた新たなブランドだ。若い消費者にも届きやすくなるよう、購入しやすい価格帯に設定している。
「ワイナリーは、笛吹市一宮町の「狐新居(きつねあらい)」という場所にあります。そこで、キツネにちなんで『FOX VILLAGE』と名付けました。『FOX VILLAGE』の主人公である『フォックス』は、私が造ったワインをさまざまな場所へ届けてくれるポジティブな存在をイメージしています」。
FOX VILLAGEシリーズのエチケットに描かれたフォックスのイラストは、どこにでも気軽に遊びに行けるように長靴を履いているのだとか。つい手に取ってみたくなる、かわいらしいデザインだ。

▶︎クリーンなワインを造るために
前島さんのこだわりは、クリーンなワインを造ることだ。オフ・フレーバーといわれる欠陥臭を出さないために、ひと手間加えていることがある。
「ネガティブな要素をできるだけ排除するために、特定の品種では仕込み前にぶどうを洗浄しています。クエン酸水で洗ってから水で流して、冷蔵庫で乾かします。野生酵母や農薬などが取れて香りが出やすくなり、くっきりした味わいに仕上がりますよ」。
丁寧に対応しているこだわりが、クリーンで味わい深いワインを生み出す秘訣なのだろう。

▶︎マスカット・ベーリーAの醸造方法
ここでは、前島さんが文部科学大臣賞を受賞した実績を持つ、マスカット・ベーリーAの醸造について深掘りしていきたい。「FOX VILLAGE ベーリーA ドライ」の醸造方法を例に挙げてお話しいただいた。「FOX VILLAGE ベーリーA ドライ」は、マスカット・ベーリーA特有のキャンディ香を出さない造りをしているのが特徴だ。
「キャンディのような甘い香りがあると、食事に合わせにくくなってしまいます。キャンディ香を抑えるために、発酵前に低温状態で数日間保持する『コールド・マセレーション』を7~10日実施しています。その後は温度を上げていき、醸し期間は1か月程度です」。
コールド・マセレーションの段階で「出したい香り」を選択し、野生酵母などが動かないうちにネガティブな香りを止めるのだという。では、「出したい香り」は、どのようにして残すのだろうか。
「小さいスケールで何種類もワインを造って、酵母や温度など、それぞれ違う条件での試作を何度もおこないました。数年がかりで実施する中で、マスカット・ベーリーAに合う酵母をようやくひとつ見つけることができたのです」。
アルプスワインのマスカット・ベーリーAは、現在もその酵母を使って醸造している。ネガティブな香りが出にくい特徴があるそうだ。また、仕込みごとにぶどうの熟度を見ながら、茎の配分を変えるなどの微調整も欠かさない。長い月日をかけて培ってきた技術を集結させて、食事に合う高品質で美味しいワインを造っているのだ。
『アルプスワインのおすすめ銘柄』
アルプスワインがリリースしているワインのうち、おすすめを3つ紹介しよう。
アルプスワインのボトルはエチケットも魅力的なので、様々な銘柄を順番に試して、インテリア用にボトルをコレクションするのも楽しそうだ。
▶︎「FOX VILLAGE 甲州ドライ 2024 」
今いちばん飲んでほしいワインとして前島さんが挙げてくれたのが、「FOX VILLAGE 甲州ドライ2024」だ。アルプスワインの主力商品のひとつで、エチケットにはフォックスがぶどうの上でワインをテイスティングしている様子が描かれている。
「わざとガス感を残しているので、口の中でプチプチとはじけるのを楽しんでいただけます。甲州らしい柑橘系の香りが爽快で、どんな料理にも合いますよ。私が考える『食事に寄り添うワイン』の理想に近い仕上がりです。魚料理の場合ですと、お刺身よりも煮魚などの火を通した料理に合わせるのがおすすめです」。
また、馬刺しと合わせて飲むのもよいそうだ。山梨では、馬刺しはスーパーでも販売されているほどポピュラーな食べ物だという。山梨に足を伸ばした際には、現地で味わってみたいものだ。
「フレッシュさが感じられる甲州ワインが好きなので、ガス感をしっかりと残すために、コルクではなくスクリューキャップを採用しています」。
「FOX VILLAGE 甲州ドライ2024」は冷蔵庫でキンキンに冷やして飲んでも美味しいし、飲みながら少し温度が上がってきても味わいが楽しめる。食卓に添える1本として最適だ。
2025年ヴィンテージも、甲州らしいフレッシュさと皮由来の適度なボリューム感があり、よい仕上がりが期待できるという。

▶︎「FOX VILLAGE ベーリーA ドライ 」
続いて紹介するのは、醸造方法を紹介いただいた「FOX VILLAGE ベーリーA ドライ」。マスカット・ベーリーAの上にフォックスが乗っているエチケットが愛らしい。
「ブラックベリーやカシスのような黒い果実の香りが特徴です。甘すぎない香りのため、食事と合わせやすいですよ。味わいは酸がやや強めで、中程度のボリューム感です。重くなりすぎないよう、飲みやすく仕上げました。ワイン業界では飲みやすいワインは評価されない時期もありましたが、飲みやすいという感想をいただけると、私はとても嬉しいですね」。
もっとボリュームがある造りにすることも可能ではあるが、「FOX VILLAGE ベーリーA ドライ」が目指す姿ではないと前島さんは話す。
「重く造ると、パワーは出るけれど寿命が短くなるという印象です。すぐに飲んでも美味しいですが、10年寝かせて飲むとさらに美味しさが増すと自信を持っています。でも、10年も待てず飲んでしまうかもしれませんね」。
「FOX VILLAGE ベーリーA ドライ」は、焼き鳥のタレなどの甘辛い味付けとよく合う。甘辛いしょうゆダレを使った山梨のB級グルメ「鳥もつ煮」と相性がよいそうだ。また、すき焼きの割り下に少しだけ入れるのもおすすめである。
さらに、意外かもしれないが、生牡蠣とのペアリングもおすすめだという。生牡蠣とマスカット・ベーリーAを合わせるとハーブのような香りが出て、磯の香りをマイルドにしてくれる。樽ではなく、ステンレスタンクを使ったマスカット・ベーリーAのワインが生牡蠣とよく合うそうだ。

▶︎「FOX VILLAGE 甲州スパークリング 」
最後に紹介するのは、「FOX VILLAGE 甲州スパークリング」。甲州の甘みを少し残した仕上がりのスパークリングワインだ。
「辛口の甲州ワインにガスを入れると、ボリュームが不足した味わいになってしまいます。そのため、あえて甘みを残した状態でガスを充填しました。ほのかな甘みが生魚によく合いますよ。お刺身やお寿司、天ぷらなどに合わせるのがおすすめです」。
スパークリングワインはすぐに飲み切らないと炭酸が抜けてしまうが、スパークリングワイン用の栓を用意すれば、1週間くらいかけて楽しめるという。
「スパークリングワインを1本開けると、お風呂上がりの1杯として楽しんだり、おつまみを作りながら飲んだりなど楽しみ方の幅が広がりますよ。アルプスワインのショップでもスパークリングワイン用の栓を販売しています」。
気軽に楽しめる価格設定の「FOX VILLAGE」シリーズは、若い方やワインビギナーにもおすすめだ。色々な食事に合わせて飲んでみたい。

▶︎創業当初から続くぶどうジュース
アルプスワインは、ぶどうジュースにも力を入れている。
「創業当初から造っているぶどうジュースは、アルプスワインの強みのひとつですね。山梨産のぶどうを使った果汁100%のストレートジュースで、ぶどう本来の味わいが楽しめます。ワイナリーには車でお越しいただく方が多いため、運転される方にはジュースをご提供することもあります」。
前島さんおすすめのぶどうジュースは、「FOX VILLAGE 赤い葡萄の贅沢果汁」という商品だ。山梨産のぶどうと濃縮果汁をブレンドした無添加のストレートジュースである。オンラインショップでの取り扱いはしていないため、ぜひワイナリーに直接足を伸ばして味わってみたい。
『まとめ』
今後、前島さんが挑戦してみたいと考えていることは、これまで造ったことがないタイプのワイン醸造に挑戦することだ。
「まだ経験したことがないワイン造りに、積極的に取り組んでみたいですね。世界の色々なタイプのワインを、自分なりに造ったらどうなるのかという点に興味があります」。
直近では、ブラッククイーンを使った醸造に新しくチャレンジした。酸が強い印象のブラッククイーンを、納得できる仕上がりにするための取り組みだったという。気になった方は、ぜひ手にとってみてほしい。
アルプスワインの最新情報は、公式ホームページとInstagram、Facebookで確認できる。常に新たな挑戦を続けているアルプスワインから今後どんなワインが登場するのか、引き続き注目していきたい。

基本情報
| 名称 | アルプスワイン |
| 所在地 | 〒405-0068 山梨県笛吹市一宮町狐新居418 |
| アクセス | https://maps.app.goo.gl/a6MY75VkDXiJqH7U6 |
| HP | https://www.alpswine.co.jp/ |
