「ワイン自給率」を上げるための地域ブランディング:「栃木ワイン生産者有志の会」岩﨑元気氏インタビュー

皆様、こんにちは。今回は、地域全体で協力し日本ワインを盛り上げる取り組みとして、「栃木ワイン生産者有志の会」を立ち上げた岩﨑元気さんを招き、栃木県内のワイナリーの取り組みにスポットを当てます。

取材冒頭で、岩﨑さんは、「ワインを買うなら『日本ワイン』。『ワイン自給率』を上げていきましょう!」と切り出しました。

現在の日本のワイン市場は、70%ほどが輸入ワイン、25%ほどが輸入した濃縮果汁を国内で発酵瓶詰めした「国内製造ワイン」、そして日本国内で育てたぶどうのみを原料とした「日本ワイン」のシェアは5%、というのが現状です。

つまり、「日本のワイン市場における『ワイン自給率』は5%」ということです。

「ワイン自給率」という言葉は、2026年4月25日付日本経済新聞「NIKKEIプラス1  何でもランキング」の「果実酒の生産量が最も多い県は?」というコーナーにて、岩﨑さんの「国内のワイン自給率を上げていきたい」というコメントが掲載され、注目を集めています。

「日本のワイン自給率を上げる=日本ワインを普及させる」ことに尽力する岩﨑さんの活動と、栃木県内のワイナリーの活動を深掘りしていきたいと思います。

◆岩﨑元気さん紹介記事

◆岩﨑元気さん主催「サロン・デ・ヴァン・ジャポネ」紹介記事


『「ワイン自給率を上げる」ための岩﨑さんの活動』

「ワインを購入した時に支払われるお金の流れを、消費者の皆様に考えていただきたいと思っています」。

輸入ワインや、輸入果汁から造られるワインの購入のために支払われたお金は、一部が国外へと流れてしまう。一方で日本ワインを購入すると、代金は日本のぶどう農家やワイナリー、物流業者など、日本国内に循環する。

「日本ワインを買うということは、日本の農業を応援することであり、ぶどう畑が作る日本の美しい農村風景を守ることに繋がります。消費者にこの声がけを続けていくことが、日本ワイン振興、さらには日本の農業を守ることに繋がると考えています」。

▶︎輸出拡大の重要性と、岩﨑さんが意識する「市」「県」「国」

ワイン自給率を上げるためのアプローチには、大きくふたつのベクトルがあると岩﨑さんは言う。ひとつは国内市場における日本ワインのシェアを引き上げること、もうひとつは輸出の拡大だ。

少子高齢化が進む日本では、ワイン飲用人口が縮小していく可能性が高い。一方で、インドやブラジル、中東など、人口増加と購買力の高まりを見せる市場は世界中にあり、日本ワインが長期的に発展し続けるためには、輸出に本腰を入れることが急務だ。

日本ワインの輸出拡大を狙うための施策のひとつとして、岩﨑さんはフランスでの日本ワイン試飲イベント「サロン・デ・ヴァン・ジャポネ」を定期開催している。

「サロン・デ・ヴァン・ジャポネの活動は、私にとって『国』というスケールを意識した、ワイン自給率を上げる取り組みになります。私は現在、『市』『県』『国』という3つのスケールを意識して、ワイン自給率を上げる取り組みを同時進行しています」。

もっとも小さなスケールである「市」の活動は、栃木市大平町でおこなう岩﨑さん自身によるぶどう栽培とワイン造りだ。2026年3月に栃木市がワイン特区に認定されたことも、地域の可能性を広げる重要なきっかけとなっている。

ふたつめのスケールは、今回のテーマである「栃木県」単位での取り組みだ。県内のワイナリー同士が横の繋がりを強くし、「栃木ワイン」というブランドを共に確立することを目指す。

「市」「県」「国」という3つのスケールでの活動の目的は、すべてが「日本ワイン振興」だ。しかし岩﨑さんは「サロン・デ・ヴァン・ジャボネなどの活動は、岩﨑さんにとってどんなメリットがあるのか?」と問われることもあるという。

「3つのスケールでの活動は、すべて一本の線で繋がっているのです。フランスで日本ワインの知名度が上がれば栃木ワインへの注目が高まり、ひいては私が大平町で造るワインを販売する道が開かれます。3つのスケールは一貫した目的の上に成り立っており、共鳴するワイナリーと共に、日本ワインを底上げしていきたいと考えています」。

▶︎ブルゴーニュから見て、栃木に不足していたもの

7年にわたってフランス・ブルゴーニュで生活し、2024年7月に帰国した岩﨑さん。栃木の地で最初に感じたのは「産官学連携の不足」だった。

ブルゴーニュでは、ワイン産業を支える「産(生産者と周辺業者)」「官(行政によるAOCルールの管理や品種保護)」「学(ワインを学び研究する場)」の三者が強力に連携し、地域ブランドを共に支えている。瓶・コルク・機械類の資材から畑作業の代行業者、フィルター専門業者、梱包専門業者に至るまで、細分化された専門業者が地域の産業エコシステムを形成している。さらに、大学ではワインの研究が積極的におこなわれ、多様な学校がワイン生産に携わる人材を育成している。

「栃木に戻ってきて、それらの連携がほぼない状況に気づきました。全国的に名前が知られているワイナリーは数社ありますが、県内のワイナリーはそれぞれが個別に活動しているように見えました。長期的な発展のために、まずは横の繋がりを作ることから始めなければと思い立ったのです」。

そこで岩﨑さんは、自ら県内のワイナリーに直接足を運び、造り手たちに声をかけて回ったのである。

▶︎ワイナリー同士の親交を深めるツールは「LINE」

岩﨑さんが県内のワイナリーとの絆作りのためにおこなった活動を振り返りたい。2025年1月、「まずは仲良くなろう」というシンプルな動機から、県内ワイナリー関係者向けの新年会を開催した。ワインを持ち寄り楽しく情報交換しながら互いを知る機会を設けたのだ。

この時に作成したのが「栃木県の造り手限定のLINEグループ」。このグループの参加者は現在20名に達し、日常的な情報共有に活用されている。

「メールだと余計な形式が必要になりますが、LINEならフランクで無駄なやり取り無くコミュニケーションが取れます。例えば『余った苗欲しい人いますか?』という感じです。親しみやすく、効率的に情報連携ができる点がいいと感じています」。

通常オフィシャルになりがちなコミュニケーションをLINEグループで行うことで、カジュアルかつクイックに進めるというアイデア。これは、岩﨑さんが尊敬してやまない北海道・余市町の齊藤啓輔町長が、コロナ禍において情報共有のために近隣市町村の首長たちとLINEグループを作ったというエピソードをそっくり真似したものだ。

「これから発展していく小さな産地にとって、LINEグループを作ることは非常に有効な手法だと思います。ぜひ多くのワイン産地で、同じように活用してもらいたいです」。

▶︎「産」「官」「学」の連携を深める

横の繋がりを基盤に、岩﨑さんは精力的に活動を続けた。まず、東京・青山のワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」にて「栃木ワイン新時代」と題したシリーズ講座の企画を持ち込み、実現。首都圏のワインファンに向けて、栃木ワインが躍動している様子を発信する場を設けた。

さらには、記者や専門家を招いた栃木県内ワイナリー巡りのプレスツアーも複数回実施。現場でワイン産地としての栃木を体感してもらい、記事作成の依頼とPR活動をおこなった。

とりわけ岩﨑さんが力を入れているのが「学」との連携である。栃木県立小山北桜(おやまほくおう)高等学校との取り組みでは、高校の研修圃場で生徒たちが育てたマスカット・ベーリーAを、岩﨑さんがワインに仕込むという試みが実現した。委託醸造先のCfa Backyard Wineryにて発酵中のワインの様子を見学できたことは、生徒たちにとってかけがえのない経験となっただろう。岩﨑さんの本拠地、栃木市にある栃木県立栃木農業高等学校との連携の協議も進行中だ。

「将来の日本ワイン業界を担う若い人たちが、自分たちの手で育てたぶどうがワインになる様子を目の当たりにすることは、大切な教育だと考えています。今後も高校や大学との連携を積極的に進め、『農業は夢のある仕事』だということを伝えていきたいですね」。

また、2025年ヴィンテージの醸造では宇都宮大学とも連携し、マスカット・ベーリーAの品質向上に向けた実験を実施。大学側からも継続的な連携を望む声が上がっており、今後のプロジェクトにも期待が高まる。

こうした「産」「学」の連携を「官」にも繋げるべく、岩﨑さんはワイン生産者、県の職員、大学研究者を一堂に集めた交流会を宇都宮で開催した。約20名が集まり、和気あいあいとした雰囲気の中での顔合わせが実現したのだ。

「交流会とは言っても、個人的なつながりで開催した、ほとんど『飲み会』のようなものです。難しい話は抜きで、まずは知り合ってもらうことから始めました」。

銘醸地ブルゴーニュのような連携が一朝一夕で生まれることはないだろう。しかし、小さな働きかけの積み重ねが、必ず大きな実を結ぶはずだ。

『「栃木ワインフェア」開催までの道のり』

2025年1月の新年会の席で、岩﨑さんは「宇都宮でワインイベントを開催しよう」と参加者に呼びかけた。その場ですぐに翌年春に開催することが決まり、晴れて2026年4月18日(土)19日(日)2日にわたり「栃木ワインフェア」が開催された。

JR宇都宮駅直結の商業施設「宇都宮パセオ」との共催という形で実現した「栃木ワインフェア」には、那須塩原市・宇都宮市・鹿沼市・市貝町・足利市・栃木市の6市町から合わせて9社の生産者が集結した。

当日は、約40種類のワインの無料試飲とボトル販売を実施。準備の過程では、担当者との間で1年間に106通ものメールのやり取りをするほど細かい調整をおこなったという。宇都宮パセオ担当者のきめ細やかな対応がたいへん有難かったと語る岩﨑さんに、開催までの道のりと、当日の様子を聞いた。

▶︎「駅ナカ改札前」での開催に向けて

イベント実現に向けた最大の課題は、開催場所の選定であった。栃木県内で交通のアクセスがよく、車を使わずに来られる場所でなければならない。栃木県の玄関口である宇都宮を軸に検討を重ねた末、ある日「駅ナカでできるかもしれない」という案が浮上した。

「県内ですら知名度が低い『栃木ワイン』のイベントに多くの人を呼ぶことは簡単ではないだろうと考えました。栃木県内には、足利市の『COCO FARM & WINERY』など知名度が高いワイナリーもありますが、『栃木ワイン』というくくりにした途端に、知名度が一気に下がってしまうのです」。

たとえ集客に失敗したとしても、もともと多くの人が行き交う「栃木県最大のターミナル駅の改札前」というロケーションは、栃木ワイン初のイベントとしては願ってもない好条件であった。

▶︎「試飲無料」と「ボトル販売」に特化

「栃木ワインフェア」のテーマは、「栃木ワインを知ってもらうこと」だ。とにかく、多くの人に「栃木ワインを飲んでもらうこと」を意識したと岩﨑さんは語る。

当初はグラス売りを検討していたが、40年の経験を持つCOCO FARM & WINERYからのアドバイスが方向性を決定づけることになった。

「たくさんの栃木ワインを味わってほしいという目的なら、多くの種類のワインを少量ずつ無料試飲してもらい、最終的にボトルを買ってもらった方がよいというアドバイスをいただき、その通りに方針転換しました。結果、多くの人に試飲してもらうことに特化したことが功を奏したと実感しています」と岩﨑さんは振り返る。

「栃木ワインフェア」では、COCO FARM & WINERYでの赤ワイン醸造後の搾りかすである「マール」を飼料に混ぜて育てたブランド牛「足利マール牛」のローストビーフ販売もおこない、地域の食文化との連動も演出した。栃木ワインに特化したイベントとしては、過去最大規模の開催となった。

▶︎予算ゼロのPR戦略

「栃木ワインフェア」の企画は「予算ゼロ」でやり切ったという。広報にも予算を割けない以上、「駅ナカの周遊客」に頼るつもりでいた岩﨑さんだが、現実を見据えた助言を受けて考えを改めた。

「『慌ただしく人が行き交う駅ナカで、ワインのためにわざわざ足を止める人はどれほどいるだろうか』という意見が出て、危機感を覚えました。やはり、PRに力を入れる必要があると思い直したのです」。

チラシを印刷する予算がなかったため、まずはプレスリリースを配信した。さらには、栃木に関連する情報を掲載するあらゆるポータルサイトを地道に検索し、イベント開催の告知をおこなった。最終的に、県の観光サイト、ワイン情報サイト、地元イベント掲示板、マルシェ情報、行政関係、地元メディアなど、23のメディアでの露出を実現した。

もちろんSNS広報にも力を入れた。栃木ワイン公式Instagramアカウントを開設し、1万人以上のフォロワーを持つ宇都宮パセオとのInstagram共同投稿も実現。さらに交渉して宇都宮パセオの公式LINEでも告知してもらった。出展ワイナリーとも共同投稿を順次打っていると、県内のマスター・オブ・ワインや有力酒販店がシェアしてくれるなど、日に日に盛り上がりを見せていった。

▶︎2日間でワイン購入者800名の実績

「栃木ワインフェア」は、2日間で約800名のワイン購入者と、およそ240万円の売上を記録した。あるワイナリーでは1日目の午後にはワインが売り切れてしまい、ワイナリーまでワインを取りに行くほど、想定外の盛況ぶりであった。

来場者800名とは実際にワインを購入したお客様の数字だ。無料試飲した人数は数倍あるだろうから、結果、数千人もの人が栃木ワインを味わったことになる。人々は口をそろえて「栃木にこれほどたくさんのワイナリーがあるとは知らなかった」「どのワインもとても美味しい」と驚いたという。栃木在住の方からのダイレクトな反応は、栃木の造り手にとって大きな喜びと原動力となったに違いない。

「私がフランスで『第1回 サロン・デ・ヴァン・ジャポネ』を開催した時の感覚が蘇るようでした。誰も知らなかった『日本ワイン』をフランスの人に飲んでもらった時の感動と驚きの声が、今回の栃木ワインフェアでも起きたのです。存在さえ知ってもらえれば、必ず評価されると確信しました」。

PR活動を実施する課程で、既に「栃木ワインの認知度を上げる」という目標はほぼ達成できたと実感した岩﨑さん。そのためイベント当日は、トラブルなく無事に販売することに注力して臨んだ。学生ボランティアも1日に4名の方が協力してくれ、大盛況で終えることができた。

岩﨑さんの情熱と信念が、栃木の造り手と地域、そして消費者を動かしたのだ。栃木ワインフェアの成功が、その事実を何よりも雄弁に語っている。

『栃木ワインの未来へ 今後の目標と全国のワイナリーへのメッセージ』

今後も、栃木ワイン関連のイベントを継続的に開催していくつもりだと話す岩﨑さん。栃木県内と東京近郊で、それぞれ年に1回の開催を目指す。

今回の「栃木ワインフェア」では、駅ナカという場所の制約から食事の提供が難しかった経験を踏まえ、次回は飲食が自由にできる会場での開催も視野に入れている。

▶︎特産品とのコラボイベントを目指す

今後はワインとチーズのコラボレーション企画も開催したいと語る岩﨑さん。

「那須塩原市は、日本第2位の生乳生産量を誇る本州最大の酪農王国です。栃木ワインと栃木県産チーズの組み合わせは素晴らしいアピールになるでしょう」。

想いを持って動けば共鳴してくれる人が必ずいる。その手応えが、岩﨑さんをさらに前へと押し進めている。

▶︎全国のワイナリーへのメッセージ

最後に岩﨑さんから、全国のワイナリーに向けたメッセージをいただいた。

「地域の造り手同士が手を取り合い、全員で強くなるというスタンスが非常に重要だと思っています。近年、日本のワイナリーが増え過ぎているという声もありますが、ブルゴーニュを見てきた私からするとまだまだ増えてほしいと思っています。山梨県甲州市の勝沼エリアのように、数百メートル先にワイナリーがあるような環境になれたら、お互いが情報交換したり助け合える産地の絆がさらに強くなるはずです」。

岩﨑さんは、自社のワイン造りで精一杯だという小規模ワイナリーの現実も十分に理解した上で、「広い視野を持つことの大切さ」を真摯に呼びかける。

「日本ワインの発展を願って行動することは、巡り巡って地域のため、自社のために繋がります。私がフランスで『サロン・デ・ヴァン・ジャポネ』を開催することは、栃木で造った自社ワインを販売するための道筋を作ることに繋がり、さらには地域全体のワイン業界の振興にも繋がると信じています」。

「私たちが造るワインは、日本の農業を支え、農村の風景を守り、地域の経済を回す力を持っています。私たちが誇りを持って消費者に届けることが、日本ワイン産業の未来を切り開くと確信しています」。

『まとめ』

「ワイン自給率を上げる」という目標を全国のワイナリーの仲間たちと共有したいと話す岩﨑さん。「ワイン自給率」という言葉を旗印に岩﨑さんが実践している取り組みには、「日本のぶどう畑の風景を守りたい」という、生産者としての根源的な願いが込められている。

地域の絆を作り、地域全体で強くなるための施策は「栃木ワイン」という産地ブランドの確立に向けて着実に実を結んでいる。栃木ワイン生産者有志の会の動向に、今後も注目していきたい。


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