富山県氷見市にある「SAYS FARM(セイズファーム)」は、地元の食材を使ったレストランと宿泊施設を併設したワイナリーだ。小高い丘の上にあるSAYS FARMからは、富山湾越しの立山連峰と氷見市の街並みが一望できる。
寒ブリをはじめとした海の幸に恵まれ、古くから続く漁師町として知られる氷見市。SAYS FARMは、そんな氷見市の老舗魚問屋「釣屋」が立ち上げたワイナリーである。市内数箇所にある自社圃場で育てたぶどうそのままの美味しさを表現し、魚料理に合うワインを造る。氷見市の風土を表現したSAYS FARMのワインは軽やかで飲みやすい味わいで、ロゼワインにも力を入れているのが特徴だ。
地元愛あふれるSAYS FARMが取り組んでいるぶどう栽培とワイン醸造について、栽培醸造責任者の田向俊(たむかい しゅん)さんにお話を伺った。魚問屋がワイナリーを始めることになった経緯と、SAYS FARM設立から現在までの取り組みを紹介しよう。
『SAYS FARMのこれまでの道のり』
魚問屋は、海や天気の状況に左右される仕事だ。さらに、温暖化などの気候変動によって海の状況は昔と変わりつつあり、獲れる魚種の変化や不漁が続くなどの影響も出て来ている。
そんな不安定な状況を補うために、ものづくりの事業への可能性を検討したのが、ぶどう栽培とワイン造りを始めるきっかけだった。
▶︎魚問屋がワイン造りにチャレンジ
「創業メンバーが、たまたま新潟県にあるワイナリー『CAVE D’OCCI WINERY(カーブドッチワイナリー)』さんに見学に行ったのが、SAYS FARM発足のきっかけです」。
当初は米を栽培することも検討したが、年ごとの天候の個性がダイレクトに味わいに現れるぶどう栽培とワイン造りに大きな魅力を感じたという。ワインを造ることで土地の魅力を伝えられると考え、自社畑でぶどうを育てることを決意したのだ。ワインを通して氷見のよさをたくさんの人に知ってもらいたいという願いのもと、SAYS FARMが誕生した。
「ワイナリーと最初の畑は、港町として栄えてきた氷見の情景が一望できる場所に作りました。SAYS FARMからは、富山湾越しの立山連峰が望め、氷見の街並みも見わたすことができますよ」。
2007年に自社畑の開墾をスタートしたSAYS FARM。ワイナリーのメンバーだけでなく、魚問屋の社員たちも開墾作業に加わって、氷見ならではのぶどうが育つ自社畑が出来上がった。

▶︎100%氷見産ワインを造る
氷見の魅力を伝えられるワインを造るために、自社畑で栽培されたぶどうだけでワイン造りをしているSAYS FARM。
「私たちがぶどう栽培を始めた2007年頃は、自社畑のぶどうだけでワイン造りをしているワイナリーはまだ少ない時代でしたね。氷見の魅力を伝えるために、自社畑のぶどうのみを使うことをあえて選択しました」。
ぶどう栽培とワイン造りは、長野県東御市にある「ヴィラデスト ガーデンファーム アンド ワイナリー」で学んだ。栽培・醸造の基礎を、2年かけてしっかりと教わったのだ。
「私たちのオーナーは、学んだことを生かして栽培・醸造に取り組めば、氷見も地元の食材と一緒にワインを楽しめる場所になるという信念を持っていました」。
2007年に開墾した畑には、2008年からぶどうの植え付けを開始。当時植えた品種は以下の通りだ。
- シャルドネ(3,000本)
- カベルネ・ソーヴィニョン(1,000本)
- ソーヴィニョン・ブラン(1,000本)
- メルロー(2,000本)
2008年に植えたシャルドネとカベルネ・ソーヴィニョンは、翌年2009年に早くも初収穫を迎え、ヴィラデスト ガーデンファーム アンド ワイナリーに委託醸造した。
「2009年は木を育てるつもりだったので、収穫の予定はありませんでした。しかし、氷見の環境がぶどうの成長を早めたようで、2年目からたくさんの実が付いたので、委託醸造でワインを造ることに決めたのです」。
生まれ育った土地を表現するワインを造り、魅力を発信していくというオーナーの強い思いを表現するためのワイン造りがスタートした瞬間だった。

『SAYS FARMのぶどう栽培』
北陸地方にある氷見市は、降雪量が多いために気温が低いイメージを持たれがちだ。しかし実際には、夏は気温が高くなり蒸し暑い。また、海が近いので年間を通して湿度が高いのが特徴だ。
一見するとぶどう栽培には不向きな気候に思えるが、そんな気候も氷見をあらわすものだとポジティブに捉えている田向さん。また、試行錯誤を続ける中で、SAYS FARMは氷見の環境に適した品種に巡り合ったという。
氷見で育ったぶどうには、どんな特徴があるのだろうか。畑の特徴と気候、栽培している品種について詳しく見ていこう。
▶︎自社畑と気候の特徴
SAYS FARMの自社畑は、すべて氷見市内にある。冬は降雪量が多い土地だが、ぶどうの生育期である4~10月は気温が高く夜温も下がりにくい。さらに、海から来る湿った風が常に吹き付けるため、ぶどうにとっては過酷な環境だ。
また、雨も多い氷見市では、2024年の年間降水量は2,416mm。自社畑で育ったぶどうからは、軽やかな味わいのワインが生まれる。
「いちばん初めに作った圃場は、丘陵地の斜面にある段々畑です。遮るものがないため、日当たりと風通しがよい場所ですよ」。
海から隆起した丘陵地で土壌の最上層部分である表土は茶色がかった粘土質の腐葉土が覆っていて、その下には固い砂岩がある。海の影響を受けた土壌でぶどうを育てることが、SAYS FARMにとって大切なのだと田向さんは話す。
「気温が高いため、ぶどうの成長が早くて酸は穏やかです。ワインにするとしっかりと熟した果実味があり、軽やかな酒質になります。氷見の気候や土壌の特徴がしっかりとあらわれている味わいです」。

▶︎氷見の気候に適したアルバリーニョの栽培
SAYS FARMでは、2012年からアルバリーニョの栽培も開始した。
「創業時はどんな品種が氷見の土地に合っているか分からない状況だったため、日本でよく栽培されている品種を中心に4品種を選びました。栽培していく中で、どんなぶどうが氷見の環境に適しているのか少しずつ見えてきました。新たな品種として選んだのがアルバリーニョです」。
アルバリーニョはスペインが原産の品種で、大西洋沿岸のリアス・バイシャス地方が主な産地だ。海が近く雨が多い、湿潤な気候のリアス・バイシャスで育つアルバリーニョは、魚介類と相性がよいため「海のワイン」とも呼ばれる。
「アルバリーニョは樹勢が強いため、他の品種と同じ栽培方法だと房が付きにくいことが分かりました。そこで、『リラ仕立て』を導入しています」。
「リラ」とはフランス語で「竪琴」を指す言葉だ。リラ仕立ては樹をY字型に整えて、新梢が天に向かってV字型に広がるようにする。樹勢のコントロールが容易になることから、SAYS FARMでは2016年から仕立て方を変更。リラ仕立てにしてから収量が上がり、品質も安定したという。
氷見のテロワールを最大限に表現できる、土地に合った品種と栽培方法にたどり着いたSAYS FARM。栽培しているぶどうの中でも、品質が飛びぬけてよいのがアルバリーニョなのだ。
「近年、猛暑や大雨などの気候変動が急激に進んでいるので、今後また品種の見直しをすることもあるかもしれませんが、アルバリーニョに早い段階で巡り合えたことを嬉しく思っています」。
アルバリーニョは、氷見の魅力を発信していくというオーナーの思いを叶える力を持った品種なのだ。

『SAYS FARMのワイン醸造』
続いては、SAYS FARMのワイン醸造について紹介しよう。品種の個性と氷見の魅力が融合するワイン造りを目指すSAYS FARM。氷見の食文化に根ざし、今後も長く飲み続けてもらえるようなワインを造っていきたいと考えている。
ワインを造る上で心がけていることや、こだわりについてお話しいただいた。SAYS FARMのおすすめのワインもあわせて見ていこう。
▶︎氷見の魅力を伝えることが使命
気候や土壌など、氷見の風土を反映させたワイン造りを大切にしているSAYS FARMの思いは、ロゴマークにも込められている。氷見から見える立山連峰や、SAYS FARMで栽培しているフルーツなどが描かれた素敵なデザインだ。時代が変わっても、このロゴを見れば氷見が連想できるようにとの思いを込めてデザインしたという。
「氷見の強みをたくさんの方に知っていただき、地元をさらによくしていきたいという強い思いをオーナーが持っています。社員が少なかったころはみんなで同じ目標に向かって進み、意識の共有がしやすかったのですが、今は畑やレストランが大きくなり、宿泊施設もできて社員が増えました。会社が成長するとともに意識の共有が難しくなりつつありますね。そこで、全体ミーティングの場を設けて、どんな思いでSAYS FARMが成長してきたのかという骨格となる部分を共有することを大切にしています」。
SAYS FARMの社員全員が同じ意識を持ち、同じ方向を向いて進んでいる様子は、実際に氷見に足を運べばよくわかる。港町を望めるSAYS FARMを訪れることで、ワインと氷見の魅力、SAYS FARMがワイン造りに込めた思いを感じることができるだろう。

▶︎区画ごとのぶどうで造るワイン
SAYS FARMの自社畑では、区画別にぶどうを管理して醸造している。美味しいワインを造るために、特にこだわっているのが収穫タイミングだ。
「最適な熟度で収穫することを心がけています。収穫時のぶどうがどの程度熟しているかによって、ワインの味わいが大きく変わります。畑によってぶどうの熟し方が違うので、区画ごとにベストなタイミングで醸造し、最後にブレンドしているのです」。
自分たちで管理している自社畑のため、区画ごとの魅力や個性を把握しやすい。創業当時からずっと区画ごとに管理するスタイルを貫いているという。
「醸造に関しては、どうしたらもっとよい発酵をしてくれるか、どういう手入れをしたらもっと土地の個性が反映されるかを考えて、毎年ブラッシュアップし続けています。年ごとに気候条件は違いますが、毎年経験を積み重ねることによって、収穫に最適なタイミングが正しく判断できるようになりました」。
醸造技術のスキルアップにあわせて、野生酵母での発酵など新たな手法にも積極的にチャレンジ。これからもSAYS FARMは真摯にワインを造り続けていくのだ。

▶︎SAYS FARMおすすめのワイン
SAYS FARMのワインの中から、田向さんおすすめの銘柄を伺った。まずは、フラッグシップ・ワインである「SAYS FARMシャルドネ」だ。2021年ヴィンテージは、ロンドンで毎年開催されている「インターナショナル・ワイン・チャレンジ」にて銀賞を受賞した。
「SAYS FARMが手がけたワインを、よりたくさんの方に飲んでいただけるきっかけとなった銘柄が『SAYS FARMシャルドネ』です。雨が多い氷見の気候をポジティブに反映したみずみずしいぶどうを使っているため、軽やかな仕上りが特徴です。ステンレスタンクで熟成し、土地と品種の魅力をストレートに表現しています」。
軽やかさの中にシャルドネの要素もしっかり詰まった「SAYS FARMシャルドネ」は、魚料理との相性もよい。続いて紹介するのは「SAYS FARMアルバリーニョ」だ。
「『SAYS FARMアルバリーニョ』の味わいからは、氷見の情景とテロワールが存分に感じられます。『氷見と言えばアルバリーニョ』とイメージが結びつくような仕上がりですね。魚との相性もよく、SAYS FARMを代表する銘柄になってきています」。
「SAYS FARMアルバリーニョ」は海産物と合わせるのがおすすめだ。特に相性がよいのが、5月下旬から8月初旬まで氷見で獲れる岩ガキである。サイズが大きくミルキーな味わいの岩ガキは「SAYS FARMアルバリーニョ」との相性が非常によいそうだ。旬の時期に氷見を訪れて、「SAYS FARMアルバリーニョ」と一緒に味わってみたい。

『SAYS FARMの今後の取り組み』
SAYS FARMでは、より多くの人に氷見の魅力を知ってもらうために、ワインの生産本数を増やす予定だ。醸造量アップに伴って、ワインを管理するセラー棟も新しく建設しているところだ。
実は、ロゼワイン造りにも力を入れているSAYS FARM。醸造しているワインのうち、3割がロゼワイン、6割が白ワイン、残り1割が赤ワインである。SAYS FARMのロゼワインの魅力と、今後予定している取り組みについてお話いただいた。
▶︎生産量をやし、セラー棟をリニューアル
2025年の年間生産本数は3万5千本ほどだったが、将来的には7~8万本程度まで増やす計画だ。
「生産本数を増やして、SAYS FARMのワインを飲みたいというお客様のご要望にもれなく応えていきたいですね。アルバリーニョが氷見の環境に合っていることがわかったので対応可能だと考えています」。
生産本数アップを見据えて、新しい畑にはアルバリーニョ用を追加で植栽済みのため、段階的な収量の拡大を見込んでいる。
また、2026年3月には新たなセラー棟が完成し、5月から運営が開始される。10万本のワインが保管できる大規模地下セラーだ。地上階にはバックヴィンテージのテイスティングや、ゲストシェフを迎えてのペアリングイベントなど、多目的に利用可能なプレゼンテーションルームも備える。SAYS FARMで過ごすひとときが、これまで以上に豊かで上質なものとなるだろう。
「生産本数を増やすだけではなく、一番よい状態でワインをリリースできるような体制を整えていきます。氷見の土地に合うアルバリーニョという品種に巡り合えたからこそ、SAYS FARMは次のステップに進めたのです」。
SAYS FARMのオンラインショップでは、リリース後すぐ売り切れになってしまう銘柄もあるという。生産本数が増えれば、より多くの人が氷見のワインを気軽に楽しめるようになるだろう。

▶︎ ロゼワインの魅力を伝える
SAYS FARMの自社畑では赤ワイン用品種も栽培しているが、生育期の気温が高い氷見の気候では、濃厚な赤ワインに適したぶどう作りは難しい。
「氷見の土地で育つぶどうには赤ワインに重要なタンニンが出にくいので、無理に濃い赤ワインを造ろうとすると、味わいのバランスが崩れてしまいます。そこで私たちは、赤ワインではなく、皮に含まれる要素を生かしたボリュームのあるロゼワイン造りに力を注いでいます」。
ロゼワインは氷見で冬に獲れる脂がのった魚と合わせるとバランスがよいため、氷見の食文化に根付くのではと田向さんは言う。
「冬場に獲れるイワシやブリなど脂がのった魚には、適度な渋みや甘みがあるワインが合います。ロゼワインは冬の魚にぴったりの味わいなので、力を入れているのです」。
2012年からロゼワインを造り始めたSAYS FARMのラインナップには、今では3種類のロゼワインがある。冬の魚に合わせやすい「ROSE」、夏に飲みやすいスパークリングワインの「AWA ROSE」、赤ワイン用品種と白ワイン用品種をブレンドした「IYASA A ROSE」と、それぞれに個性的な銘柄だ。
「スパークリングワインの『AWA ROSE』は、すっきりとした喉越しが特徴のロゼワインです。種類が増えたことで、1年を通じてロゼワインを楽しんでいただけるようになりました」。
美味しいロゼワインを造ることを考えて赤ワイン用品種を栽培をしているSAYS FARM。和食との相性もよいロゼワインは、日本の食卓に美味しさと彩りを添えてくれる存在なのだ。

『まとめ』
SAYS FARMでは、ワイナリーでさまざまなイベントを開催。2026年5月には、新たなセラーの完成記念イベントを予定している。また、例年10月におこなっている「SAYS DAYS(セイズ デイズ)」という収穫祭や、焼き鳥とワインが楽しめるイベントなど、盛りだくさんだ。
「氷見の魅力とSAYS FARMのワインを存分に味わっていただけますよ。氷見に来てよかったと言っていただけるイベントにしたいと考えています」。
イベントに関する最新情報はSAYS FARM のホームページやSNSでチェックできるので、気になる方はぜひ確認したい。 SAYS FARMには宿泊施設やレストランも併設しているので、北陸の名所を巡る旅の拠点にするのもおすすめだ。ぜひ現地に足を運んで、氷見の空気とテロワールを肌で感じてみてほしい。

基本情報
| 名称 | SAYS FARM |
| 所在地 | 〒935-0061 富山県氷見市余川字北山238 |
| アクセス | https://www.saysfarm.com/access |
| HP | https://www.saysfarm.com/ |
