「めむろワイナリー」は、北海道河西郡芽室町の農家が栽培したぶどうでワインを造っているワイナリーだ。2016年からワイン用ぶどうの栽培を開始し、委託醸造でのワイン造りをスタート。2020年10月1日には果実酒醸造免許を取得して、念願の自社醸造に着手した。
めむろワイナリーでワイン造りを担当しているのは、醸造責任者の尾原(おはら)基記さん。十勝の雄大な自然の中で育ったぶどうの美味しさを、そのままワインにすることを目指している。
今回は尾原さんに、寒さが厳しい十勝エリアでのぶどう栽培・ワイン醸造におけるこだわりをお話いただいた。めむろワイナリーがリリースしている銘柄の中から、おすすめのワインについても伺うことができたので、詳しく紹介していこう。
『めむろワイナリーの設立から現在まで』
めむろワイナリーがある芽室町は、北海道の南東部にある十勝エリアに位置する。十勝とは帯広市を中心とする広大な地域で、農作物の栽培が盛んだ。また、日本有数の酪農地帯でもある。
めむろワイナリーは、なぜ芽室町でワイン造りを始めることになったのだろうか。ワイナリー設立の経緯と、これまでの歩みをたどっていきたい。
十勝地方で生まれたぶどう品種を中心に栽培しているめむろワイナリーのぶどう栽培についても深掘りしていこう。
▶︎地元農家が栽培したぶどうをワインに
めむろワイナリーは、芽室町の6軒の農家が栽培したぶどうでワインを造っている。もともと十勝の広大な土地で様々な作物を手がけてきた農家たちが、オリジナルのワインを造りたいという共通の思いから、ワイン用ぶどう作りを決意。小麦やじゃがいも、とうもろこし畑の一角でぶどう栽培をするところからスタートした。
「ワイナリーがある芽室町の『嵐山地区』を盛り上げてほしいという声もあり、町の公民連携事業にも採択されたことで、自社でのワイン造りが実現しました」。
6軒の農家が栽培したぶどうはワイナリーに運び込まれ、尾原さんが全ての醸造を担当。栽培・醸造を完全に分業しているワイナリーなのだ。

▶︎芽室町の気候と、温暖化による影響
道東地区に位置する十勝の冬は、雪が少なく気温が低いのが特徴だ。寒冷地でのぶどう栽培とは、一体どのようにおこなわれるのだろうか。
「シャルドネやピノ・ノワールなどのヨーロッパ系品種は、マイナス15℃くらいになると凍ってしまい、次の年に芽が出てこなくなります。雪の中に樹を埋めて越冬できれば凍害にあうことはないのですが、十勝は雪が少ないため、耐寒性が強い品種を中心に栽培しています」。
「十勝晴れ」という言葉があるほど、冬はよく晴れる十勝では、放射冷却が進み気温がぐんぐん下がっていく。12月になるとマイナス20℃近くの気温が何日も続くこともあるため、一般的なワイン専用品種は越冬できないのだ。
もちろん、年によって気温や降雪量は変化する。特に近年は気候変動の影響が大きく、2024年12月~2025年1月は非常に雪が少なかったが、ひと晩で1mもの雪が降ったこともあったという。
冬季の寒さは以前として厳しい十勝だが、春から夏にかけては温暖化の波を感じていると話す尾原さん。2025年は、以前に比べると5〜7℃も気温が高くなったのだ。しかし、寒冷地においては、温暖化の影響はマイナスばかりではなく、むしろ歓迎すべきことでもある。
「春先の気温がこれまでよりも高くなることで、遅霜による被害の減少が期待できます。北海道の道東や道北エリアでは、5月後半から6月にかけて遅霜が降りて、ぶどうが枯れてしまうことがよくあるのです」。
特に、4月の気温が高い年には、春の訪れを感じたぶどうが一斉に芽吹くため、その後に遅霜がおりて被害が拡大することがある。遅霜によるダメージを受けると、無事に生育が継続できたとしても、秋の収穫時期に完熟しない可能性が高くなる。そのため、気温が高くなったことで遅霜の被害が減ったことは、十勝のぶどう栽培にとっては朗報なのだ。

▶︎十勝ならではの品種の栽培
めむろワイナリーが醸造に使用するぶどうは地元農家が栽培しているため、ワイナリーは自社畑を保有していない。6軒の農家の畑はいずれも芽室町にあるが、広々とした土地にあるため、それぞれの距離は離れているそうだ。栽培している品種は以下のとおりである。
- 山幸(やまさち)
- 清見(きよみ)
- 清舞(きよまい)
- シャルドネ
- ケルナー
- ソーヴィニヨン・ブラン
- ピノ・グリ
- ツヴァイゲルトレーベ
- ピノ・ノワール
主力は、北海道中川郡池田町にある「十勝ワイン(池田町ブドウ・ブドウ酒研究所)」が開発した「山幸」「清見」「清舞」の3品種。ヨーロッパ系品種に比べて寒さに強いヤマブドウ系品種が、全体の9割以上を占める。
「山幸・清見・清舞は耐寒性に優れており、十勝の厳しい寒さでも越冬できます。3品種のうち、清見だけはやや寒さに弱いので、畑全体をビニールでカバーして寒さから守っています」。
ぶどう畑は、もともと違う作物が栽培されていた場所や、ぶどうを植えるために新たに開墾した畑など。いずれも風通しがよい場所だが、ヨーロッパ系品種は、西風や北風対策の防風林がある場所の方が育ちがよかったそうだ。
「広い畑に他の作物と輪作しているので、なかなか見られない光景が眺められると思いますよ。もともと作物が植えてある場所なので、とても肥沃な土地です」。

▶︎農業のプロが作るぶどう
醸造を担当している尾原さんは、ぶどう栽培に関しては基本的に農家におまかせしていると話す。
「ぶどう栽培の経験がなかったとはいえ、みなさん農業のプロですので、栽培に関しては、『美味しいぶどうを作ってください』とだけお願いしています」。
めむろワイナリーでは土の中の微生物の状況やミネラルバランスを細かく分析してぶどう作りに役立てており、栽培方法は畑ごとに異なる。
尾原さんからリクエストすることは基本的にはないというが、必要に応じて司令塔のような役割を果たすこともあるそうだ。
「夏場の暑くて湿度が高い時は病気になりやすいので、余分な葉を取って風通しをよくしてくださいと声かけしています。ちょうど他の作物の対応も忙しい時期なので、天気予報を見ながら注意喚起するように心がけています」。
また、めむろワイナリーでの栽培量が多い品種のうち、山幸では特別な対応をおこなっている。山幸は酸味が強い品種だが、房を日光に当てると酸が分解される特性を持つ。そのため、ぶどうが色づき始めたころに、房の周りを除葉して日光に当てる必要があるのだ。
めむろワイナリーのぶどうは農家が個々の技術力を生かして栽培しているが、ヤマブドウ系品種がメインのため、強い酸をできるだけ抑えられる栽培をおこなうことを共通認識として持っている。
「収穫の時期には私も週1回は必ず畑に行って、収穫時期を検討するために糖度などを測ってまわります。完熟させた状態で収穫したいかどうかは希望がそれぞれ異なるため、収穫時期は農家さんと話し合って決めていますね」。

『めむろワイナリーのワイン醸造』
めむろワイナリーでは、「美味しいワインは美味しいぶどうから」という考えのもと、ワイン造りをおこなっている。
「私は、ワイン造りは『減点法』だと考えています。年ごとにぶどうの出来は違いますが、醸造所にやってきた時点のぶどうの味を100点とすると、醸造の作業をするごとに減点されていくイメージです。少し手を抜いて雑な作業をすればマイナス20点、30点とどんどん減点されてしまうため、できるだけ減点がないように管理してお客様にお届けするかが、私の仕事だと思っているのです」。
美味しいぶどうがあってこそのワインだと話す尾原さんに、めむろワイナリーのワイン醸造について詳しくお話を伺った。
▶︎美味しいワインの秘訣
めむろワイナリーでは、ぶどうの梗を取るための「除梗機」にこだわりがある。使用しているのは、ぶどうの粒がつぶれにくい高品質なものだ。国内での導入例が少なく、珍しいタイプを使っているという。
ぶどうの品質を最大限に保てるよう念入りに除梗をした後は、10人がかりで丁寧な選別作業を実施。品種によっては梗が切れやすいものがあるため、除梗機をかけた後に手作業で再度確認しているのだ。
「ヨーロッパ系品種は除梗機を使用しただけできれいに粒が出てきますが、山幸や清舞は梗が切れやすいのです。粒に梗が少し残った状態になってしまうため、手作業で取り除いています」。
たとえ少量であっても、梗が粒についた状態で仕込むと、青臭さが出て雑味の原因になってしまう。そのため、丁寧な除梗・選別作業をおこなうことで、ぶどうのポテンシャルをキープできるよう努めているのだ。

▶︎ワイン造りにおけるこだわり
めむろワイナリーは、生産者が主役のワイナリーだ。そのため、ワイン造りにおいても生産者ファーストのこだわりがある。ワイン造りを始めた頃はどのぶどうも同じように醸造していたが、現在は6軒の農業者のぶどうに合わせて、それぞれに異なるアプローチを試みている。
「めむろワイナリーのワインは、培養酵母を使って醸造しています。始めの頃、全てのぶどうを同じ酵母と発酵期間で仕込んだところ、味や香りが少しずつ違うことに気付きました。製法は同じだったため、原料の違いが味わいに影響していたのです。畑の違いを表現するため、2020年~2021年は全てのぶどうを同じ醸造工程でワインを造りました」。
2022年頃からは、酵母の種類を増やして農家のリクエストに答えながら個別に醸造するスタイルに移行してきた。その結果、42本の醸造タンクを使うというこだわりを発揮することになったのだ。
「農家さんごとに、造りたいワイン像が徐々に見えてきました。軽くて飲みやすいワインや、果実味がしっかりしたワインなど、本当にさまざまです。畑ごとにタンクを分けて、軽めのワインであれば早めに搾り、重めであれば発酵期間を長くしています。タンクごとに管理しているので大変さもありますが、農家さんたちが『私が好きなワインだ』と言ってくれると嬉しいですね。様々な造りに挑戦することはワイナリーの発展にもつながるので、農家さんの声を大切にしています。醸造時期は忙しいですが、タンクの数だけ楽しみがありますよ」。
単一仕込みだけではなくブレンドワインも造っているが、少量のぶどうであっても、最初は必ずタンクを分けて醸造しているそうだ。色々な要望に応えるため、タンクのサイズも複数準備している。

▶︎ワインの変化を敏感に感じとる
ワイン造りにおいて大切にしていることについて尾原さんに伺うと、ぶどうや発酵の状態の変化を敏感に感じ取ることだと話してくれた。
「どんなワインにするかは農家さんと話して決めますが、収穫直前に天気が悪くなると、想定よりもぶどうの品質が下がることもあります。そのため、ぶどうの糖度や酸度を測って分析し、ぶどうの状態に合わせて路線変更することも大切にしています」。
ワインはぶどうありきのお酒であるため、まずはぶどうの状態をよく分析し、酵母の選択なども慎重におこなっているのだ。
「ただ単にワインを造るだけならそこまで難しくないのですが、いかに理想通りのワインを造れるかが、醸造家の腕の見せどころだと思います。醸造過程で横道に逸れてしまった場合でも、元の道に引き戻してあげられるよう心がけていますね。9~11月の醸造時期は、少しの変化も見逃さないようにしっかりと集中して取り組んでいます」。

『めむろワイナリーのおすすめワイン』
十勝が誇る独自のぶどう品種を、もっと世間に知って欲しいと願っている尾原さん。十勝ならではの味を広めていきたいと考えているのだ。
「山幸など、十勝特有の品種のワインをおすすめする場合には、まず品種の説明から入らなければ伝わらないことが多いのが現状です。いずれは、名前を聞いただけで『十勝のぶどうだ』と分かっていただけるようになってほしいですね。十勝ワインの美味しさを知っていただくために、とにかく品質にこだわって造っています」。
十勝で誕生したぶどう品種を使ったラインナップの中から、3銘柄を挙げていただいたので紹介したい。
▶︎「かなえる山幸」
最初に紹介するのは、山幸の赤ワイン「かなえる山幸」だ。タイトルの「かなえる」には、みんなの夢がかなうようにという願いが込められている。山幸の赤ワインをよく飲んでいる人でも、めむろワイナリーの「かなえる山幸」は、他社のものとは味が違うとの感想を持つそうだ。ヤマブドウ特有の野性味あふれる風味をまろやかにすることを意識して仕込んでいるため、飲みやすい味わいに仕上がっている。
「ヤマブドウ系品種のぶどうを使ったワインには、強い酸味や草木のような独特の香りがあります。『かなえる山幸』は、ヤマブドウが持つ特徴的な風味を少し抑えています。除葉して房にしっかりと日光を当てることや、丁寧な除梗作業をおこなうことで、理想の風味を実現しました」。
誰でも楽しめる飲みやすい味わいのワインにするため、品質にこだわって丁寧に造られたワインだ。「かなえる山幸」には、生産者が異なるぶどうを使った4種類があり、エチケットには銘柄名と共に生産者の名前を明記している。それぞれに異なる味わいを持つため、お客様にどんなタイプが好きか聞きながら、おすすめの1本を提案できるのがメリットだ。
「4軒の農家さんが作ったぶどうの『かなえる山幸』はそれぞれに個性があるため、お客様の好みにマッチするものを提案しています。パワフルなものや樽香が強めのもの、果実味豊かなものなど、個性的な特徴がありますよ」。
尾原さんに「かなえる山幸」に合わせる料理を尋ねると、北海道の郷土料理である「ジンギスカン」をおすすめいただいた。ハーブのような清涼感のある山幸の香りが、少し癖のある羊肉に合うそうだ。渋みが少なくさらっとした飲み心地のため、醤油ベースの和食とも合わせやすいという。
「十勝には、肉や野菜など地元産の美味しい食材がたくさんあります。十勝の食べ物と一緒にめむろワイナリーのワインを飲んでいただけたら、とてもうれしいですね」。

▶︎「よろこぶ山幸 ロゼスパークリング」
山幸の魅力はヤマブドウに由来する酸味と風味だが、一般的なワイン専用品種とは一線を画す味わいのため、好みが分かれる品種だという。そこで、より多くの人に山幸を飲んでもらうため、「かなえる山幸」よりもさらに飲みやすく造った銘柄が、「よろこぶ山幸 ロゼスパークリング」だ。
甘酸っぱくフレッシュな果実味が特徴で、山幸のイメージが変わるようなワインである。サクラアワード2025では、「よろこぶ山幸 ロゼスパークリング 2023」はゴールドを受賞した。
「山幸を飲み慣れない方にも、気軽に楽しんでいただきたいと考えて造ったワインです。山幸の酸味はスパークリングタイプにマッチしやすいようで、とても美味しく仕上がりました」。
お祝いの席などで飲んで欲しいという思いから名付けた「よろこぶ」という名前は、贈り物にも最適だろう。
「よろこぶ山幸 ロゼスパークリング」は、10℃前後に冷やして飲むのがおすすめだ。ヤマブドウ系品種のワインを飲んだことがない方は、「よろこぶ山幸ロゼスパークリング」から始めてみてはいかがだろうか。

▶︎「たのしむ 清見ロゼ」
最後に紹介いただいたのは、十勝で誕生した品種である清見を使った、きれいなピンク色が特徴のロゼワイン「たのしむ 清見ロゼ」だ。
「めむろワイナリーは、栽培している主力品種が山幸・清見・清舞のため、ラインナップには白ワインが少ないのです。赤ワインが苦手な方にもワインを楽しんでもらいたいと思い、ロゼワインを造りました」。
「たのしむ 清見ロゼ」は作業工程を細かく管理したロゼワインで、こだわりを持って仕上げている。
「数種類のタンクで仕込んで、最後にブレンドしています。圧をかけず搾れば色が淡い果汁が出ますし、しっかり搾れば濃い果汁になるため、濃さや畑ごとに別々のタンクで発酵させて個性を出しました」。
3~4種類のロゼワインをテイスティングし、味や色合いのバランスを見ながらブレンド。華やかな香りと爽やかな酸がある、軽やかな味わいに仕上がった。日常の食卓ではもちろん、ピクニックやバーベキューなどのアウトドアシーンでも、「たのしむ 清見ロゼ」を楽しみたい。

『まとめ』
めむろワイナリーが目指すのは、飲んだ人が十勝まで足を運んでみたいと思えるようなワインを造ることだ。
「コロナ禍が落ち着いて数年経って、ようやく観光客が増えてきました。美味しい食べ物がたくさんある土地なので、ぜひ十勝に来て、土地の味と一緒にワインを飲んでもらいたいですね」。
ワインは原料に水を使わず、ぶどう100%で醸すお酒のため、十勝のテロワールを余すところなく感じられるだろう。降雪量が少なく寒さが厳しい地域で育った十勝のぶどうは、どんな味わいのワインになっているのか、気になる方も多いのではないだろうか。めむろワイナリーのワインは公式オンラインショップでも購入できるため、ぜひチェックしたい。
北海道の大自然の中でフレッシュなワインを味わいたいと思ったら、ぜひ北の大地まで足を伸ばして、十勝の農家が栽培したぶどうの美味しさが存分に詰まっためむろワイナリーのワインを現地で味わってみてほしい。

基本情報
| 名称 | めむろワイナリー |
| 所在地 | 〒082-0086 北海道河西郡芽室町中美生2線44番地3 |
| アクセス | 自動車でお越しの場合:JR芽室駅から15分、道東自動車道 芽室ICから25分 |
| HP | https://memurowinery.jp/ |
