『えべおつWein(ヴァイン)』冷涼な気候を反映した北海道らしい味わい

北海道の中部、滝川市にある「えべおつWein(ヴァイン)」は、代表を務める髙橋孝輔さんが両親と共に営むワイナリーだ。「えべおつ」という名前は、ワイナリーがある土地「江部乙町(えべおつちょう)」に由来する。

かつてはりんご栽培が盛んだったという江部乙町に、新たな産業を興すべくワイナリーを設立した髙橋さん一家。自社畑で栽培しているのは、寒冷地でも健全に育つことを重視した7品種のぶどうだ。2023年からスタートした自社醸造では、野生酵母を使ってワインを醸している。

今回は、えべおつWeinの設立から今日までの歩みと、ぶどう栽培・ワイン醸造のこだわりなどについて髙橋さんにお話いただいた。ワイナリーとしての発展だけでなく、地域全体の活性化を担う存在となることを目指すえべおつWeinのこれからについても、あわせて紹介していこう。

『えべおつWein設立までの経緯』

まずは、えべおつWeinがぶどう栽培とワイン醸造を始めるまでを振り返ってみたい。

髙橋さん一家が滝川市にえべおつWeinを設立するまでには、どんな思いとストーリーがあったのだろうか。

▶︎思い出の地・北海道に移住

「私が子供の頃に、北海道の千歳で1年過ごしたことがあるのです。父の仕事関係での滞在でした。私自身は幼かったので覚えていないのですが、両親にとっては北海道各地を巡ったことがよい思い出になっていたようで、いずれ現役を退いたら北海道で暮らしたいと話していましたね」。

夢を実現させるため、髙橋さんの両親は退職後、北海道各地の自治体に足を運んでは移住体験に参加した。移住先を滝川市江部乙にしたのは、毎年5月に開催される菜の花祭りを見て、黄色いじゅうたんのように一面に広がる菜の花の美しさに魅せられたことが決め手だった。両親が先に移住し、髙橋さんは後から合流した形だ。

「北海道の中でも比較的雪が多い地域なので、移住してからしばらく冬場は雪がある生活に慣れていなくて結構大変でしたね。移住後に就農することは漠然とイメージしていましたが、実は、具体的には決めていませんでした」。

近隣の就農者に色々と尋ねるなど、情報収集を続けた髙橋さん。最初の数年は別の仕事に従事していた。そんな時、滝川市が属する「空知エリア」に、徐々にワイン産地が形成されてきていることを知ったのだ。「空知」とは道央にある10の市と14の町からなる地域で、札幌市と旭川市の間に位置する。

北海道でのぶどう栽培やワイン造りについて調べるようになった髙橋さんは、栽培・製造・販売までを担う「6次産業」であるところに、特に興味を引かれたそうだ。

「ぶどう栽培とワイン醸造に関して詳しく知るうちに、活動を通じて、江部乙に新たな産業の基盤を作れるかもしれない点にも魅力を感じるようになりました」。

滝川市江部乙町は元々りんごの一大産地だった土地だが、今では衰退して生産者は数えるほどしか残っていない。そんな江部乙の地域振興になる事業としても、ぶどう栽培とワイン造りは最適な取り組みだと感じたのだ。

▶︎ワイナリー設立に向けて

ワイナリー設立を視野に入れて新たに歩み始めた髙橋さんは、まずぶどう栽培を学ぶことにした。研修先は、醸造用ぶどうの栽培が盛んな余市町にある「平川ファーム」だ。2015年から2年間にわたって研修を受け、2017年には江部乙町に戻った。そして、2016年から両親が植栽を始めていた自社畑に合流して、栽培をスタートさせたのだ。

家族3人で力を合わせて育てたぶどうは2018年に初収穫を迎え、岩見沢市の「10Rワイナリー」に委託醸造。えべおつWeinの初めてのワインができた。10Rワイナリーへの委託醸造は2022まで続いたが、自社畑に隣接した土地に完成した醸造所で、2023年ヴィンテージから自社醸造を開始した。

「2023年ヴィンテージは、2025年にリリースしたところです。自社醸造のワインをようやく世に送り出すことができました」と、髙橋さんは笑顔を見せた。

『えべおつWeinのぶどう栽培』

次に、えべおつWeinが自社畑で取り組んでいるぶどう栽培にスポットを当てよう。自社畑の土壌や気候の特徴、栽培している品種についてお話いただいた。

寒冷地のため、りんご以外の農作物が育ちにくい土地だったという江部乙は、ワイン用ぶどうの生産地としては、北海道の中でも北の方に位置する。冬季の最低気温がマイナス25℃を記録することもある土地でのぶどう栽培の様子を、詳しく見ていきたい。

▶︎自社畑の様子

えべおつWeinの自社畑では、全てのぶどうを垣根栽培で栽培。土壌は北海道で一般的な重粘土質で、地表20〜30cmほどは河川の堆積土で構成されている。

冬は気温が下がるだけでなく積雪量も多く、雪が降り始めると、畑は常に1.0〜1.2mほどの雪にすっぽりと埋まる。えべおつWeinのぶどうは雪の布団をかぶり、強烈な寒気が襲う冬を乗り越えるのだ。

そして、夏期に日中の気温差が非常に大きくなるのも、空知エリアの特徴だ。海から遠い内陸部のため気温が安定しにくく、雨も比較的多いという。

えべおつWeinの自社畑は、なだらかな丘陵地にある。周囲に広がるのは、大豆や小麦を栽培する畑や、古くからのりんご畑だ。また、りんごは強風に弱い作物であるため、古くから栽培されてきたりんごを風から守るために残された原生林も残っている。

▶︎栽培している品種

自社畑で栽培している品種は以下である。

赤ワイン用品種

  • ピノ・ノワール
  • ツヴァイゲルトレーベ

白ワイン用品種

  • ピノ・グリ
  • ピノ・ブラン
  • シャルドネ
  • リースリング
  • ミュラー・トゥルガウ

現在栽培しているのは7品種だが、当初は試験的に14種ほどの品種を植栽した。生育のよいものやワインにしたときに品質がよいと判断したものだけを厳選し、今の7種に絞ったのだ。植え付けた品種はいずれも、髙橋さんの研修先だった余市の生産者や、近隣地域でぶどう栽培をおこなっている生産者に相談して決めた。

「特に、ピノ・ノワールとピノ・ブランの品質がよいと感じています。どちらも冷涼な地域での栽培に適していますね」。

江部乙では、えべおつWein以前にワイン用ぶどうの栽培実績がなかったため、気候と土壌にどの品種が合うのかが、まるでわからないところから始めた取り組みだった。同じ北海道とはいえ、髙橋さんが栽培に関する研修を受けた余市と江部乙の気候や土壌は大きく異なる。

江部乙の雪と気温の低さは樹にとって大きな負荷となり、収量に影響が出る。また、雨や湿気の多さも、健全な生育にとっては大きなハードルだ。

しかし、江部乙でのぶどう栽培にもメリットはある。冷涼な地域のため、しっかりとした酸味が収穫時まで残るのだ。えべおつWeinの自社畑では、9月25日前後から10月末にかけて収穫作業をおこなう。各地で温暖化の影響が出ている中ではあるが、寒冷地の江部乙では北海道らしい酸が豊富なぶどうができるのだ。

▶︎試行錯誤しながら取り組むぶどう栽培

栽培実績のない土地でのぶどう栽培では、さまざまな困難に直面することも多かった。そんな時は、少し車を走らせて先輩生産者の元に向かい、相談に乗ってもらったそうだ。

「空知周辺の生産者さんたちは、私を快く受け入れてくださいました。話を聞いてくれたり、経験談を話してくれたりと、本当に助けていただきましたね。樹の仕立て方ひとつとっても、研修先で習ってきた方法ではうまくいかないこともあり、近くにいる先輩方から教えていただいたことを参考にしながら試行錯誤しました。土地に合う栽培管理を模索しながら進めてきたのです」。

えべおつWeinが自社畑でのぶどう栽培を始めてから数年とはいえ、気象条件が年ごとに大きく変動することを肌で感じているという髙橋さん。しかし、気候が変わってきたからこそ、江部乙でのぶどう栽培が可能になったのもまた事実だ。20年前の気候が今も続いていたら、寒すぎる江部乙でのぶどう栽培は難しかったに違いない。

髙橋さんがぶどう栽培においてこだわっているのは、日々の管理を丁寧におこなうこと。畑に足を運んで樹をじっくりと観察し、健全なぶどうが育つための手助けをする。規模を広げすぎると管理が手薄になってしまうため、自分たちが確実に管理しきれる畑の広さをキープしているという。

「朝早くから暗くなるまで畑に出て、毎日コツコツとぶどうを育てています。もちろん、栽培技術に関する知見を広めることも重要なので、勉強は今も続けていますよ。収量や品質は安定してきましたが、今後も技術を磨いて、さらに突き詰めていきたいです」。

『えべおつWeinのワイン醸造』

続いては、えべおつWeinのワイン醸造を深掘りしていきたい。理想とするワイン像はまだ模索中だが、ぶどうの味や香りをダイレクトに表現したワインを造りたいと考えている髙橋さん。

「年ごとに異なる天候によってぶどうの味わいに違いが出るので、ワインを造る際には手を加えすぎず、ぶどうそのもののよさを出していきたいです」。

▶︎混醸ワインでテロワールを表現

えべおつWeinのワインは、ほとんどの銘柄が混醸だ。アロマティックなぶどうの香りを最大限に生かしつつも、品種の特徴にとらわれすぎない味に仕上げている。発酵は全て野生酵母でおこなっているため、発酵期間中の温度管理には最大限の注意を払う。

えべおつWeinが醸す「Regenbogen 虹」は、栽培している7品種を混醸したワインである。フレッシュさと華やかな香りが特徴で、酸がしっかり残るように早めに収穫したぶどうを使用。ステンレスタンクで発酵・熟成させた。

「Regenbogen 虹」は、2018年に初収穫したぶどうで造ったワインをオリジナルとして、その後も毎年造り続けているのが特徴だ。

「初収穫した年は収量が少なかったので、全品種を混ぜて白ワインにしたのです。とても美味しかったため、今も毎年7品種の混醸ワインとして造っています。各品種の比率はオリジナルになるべく近づけたいのですが、植栽面積の割合が変わってきたので少しずつ変わってきています」。

ヴィンテージによって、酸の状態は大きく異なるそうだ。気温が高かった年のものは酸が落ち着いていてアルコール度数も高く、厚みがあってどっしりした味わいとなる。年ごとの違いを飲み比べるのも面白いだろう。

▶︎おすすめ銘柄の紹介

その他にも、2銘柄を紹介しておこう。まず、白ワイン用品種を3種類使い、樽発酵・樽熟成したのが「der Schimmer ほのか」だ。収穫時期の終わりである10月後半に収穫したピノ・ノワール、ピノ・グリ、ピノ・ブランを使っている。

「『Regenbogen 虹』と比べると、少し落ち着きと丸みがある味わいですね。品種由来の華やかな香りに、ほのかな樽香をプラスしました」。

また、赤ワイン用品種を2品種使った「der Glanz 輝」も、毎年造っている銘柄だ。ピノ・ノワール、ツヴァイゲルトレーベを使用しているが、比率にはこだわらずぶどうの状態に合わせてブレンドしているため、ヴィンテージごとに異なる特徴を持つ江部乙の味わいを堪能できる。

「どの銘柄も毎年同じように造っていますが、味わいには年ごとの特徴がよく出てくるのがとても面白い点です。ヴィンテージごとの美味しさを楽しんでいただきたいですね」。

▶︎北海道の味覚と共に楽しむワイン

ぶどう栽培をスタートする前から、ワインは混醸することを考えていた髙橋さん。選んだ品種は、混醸した時に相性がよく、お互いのよさを引き立て合うものを意識したそうだ。

「der Glanz 輝」を例に挙げると、えべおつWeinが栽培するピノ・ノワールは、冷涼な地域らしい特徴があり、赤いベリー系の香りがチャーミングだ。また、ツヴァイゲルトレーベはスパイシーな香りとほどよいタンニンがあるが、口当たりはふくよかだという。お互いのよさを引き立て合う2品種を使った「der Glanz 輝」に合うペアリングを尋ねてみた。

「シカなどの肉料理に合わせるのがおすすめです。特に、自社畑の周りにもよく姿を見せるエゾシカとの相性は抜群ですよ。また、肉質がしっかりしていて脂肪の少ないカモやジビエは白ワインにもよく合います」。

えべおつWeinのワインは、赤ワイン・白ワインどちらも北海道らしい繊細さとフレッシュさがあるため、魚や野菜などのあっさりとした料理とも相性がよいそうだ。

▶︎こだわりのエチケット

えべおつWeinのエチケットは、2021年にデザインを一新した。漢字で「乙」と大きく描かれたデザインが非常に印象的だ。

「ぶどうを栽培している江部乙の地名を前面に出したいと思って採用しました。『江部乙(えべおつ)』と聞いて、すぐに『地名だ』とわかる人は少ないので、『乙』という漢字を大きくあしらってアピールしています」。

シンプルながらインパクトがあるエチケットは、食卓でも話題を提供してくれる存在になることだろう。

ワインは食があってのものだと考えている髙橋さんは、レストランのテーブルやお祝い事、節目の日などに、美味しい料理とともに楽しんでもらえるようなワインを造りたいと考えている。特別な日の食事に、素敵なエチケットが特徴のえべおつWeinのワインで華を添えてみたい。

『えべおつWeinのこれから』

最後にお話いただいたのは、えべおつWeinの未来について。今後の展望と挑戦していきたいことなどを尋ねてみた。

ワイン造りにおける取り組みはもちろん、地域貢献にも積極的なえべおつWeinのこれからを見ていきたい。

▶︎さまざまなスタイルの醸造に挑戦

「まずはこれまで通り、自社原料100%のワイン造りを続けていきたいですね。よいぶどうを栽培して、醸造量を増やしていこうと考えています」。

赤ワインと白ワインだけでなく、今後はオレンジワインやスパークリングワインなど、さまざまなスタイルの醸造に挑戦するつもりだ。さらに、地元・江部乙産のリンゴを使ったシードル造りも視野に入れている。

「新しい取り組みの一環として、ロゼワイン『ダス・モルゲンロート 朝焼け』をリリースしました。ピノ・ノワール、ツヴァイゲルトレーベ、ピノ・グリを混醸した辛口のロゼワインです」。

この先登場するであろう、えべおつWeinの新たなワインも心待ちにしたい。

▶︎新規参入者の受け入れも視野に

ワイン造り以外の施策として、江部乙の地に新規参入者が入ってきやすい環境造りを構築していきたいと考えているえべおつWein。新しくぶどう栽培をスタートする人がワイン造りにも挑戦しやすいよう、自社醸造設備を提供してサポートするつもりだ。

「地域に複数の生産者がいれば、さまざまなスタイルのワインが誕生するでしょう。北海道全体でワイン用ぶどうの栽培やワイン造りが盛り上がってきているので、江部乙でもぶどう栽培と美味しいワイン造りができるということをアピールしていきたいですね」。

江部乙でのワイン造りが成功しているということを、えべおつWeinが証明すること自体が、地域の産業として発展させていくための礎となるだろう。周囲を巻き込みながら、江部乙を盛り上げるムーブメントを起こしていくことを期待したい。

『まとめ』

えべおつWeinの強みを尋ねると、「家族で力を合わせてワインを造っていることでしょうか」と、はにかみながら答えてくれた髙橋さん。

「栽培・醸造を3人でうまく役割分担できていると思います。ワイン造りに対する思いなどがそれぞれに少しずつ違うことも、えべおつWeinのワインの面白さを生み出すことに繋がっているのかもしれません。意見がぶつかることがあっても仲良く、楽しくやっていますよ」。

地域に根差したワイナリーとなるべく、日々努力を続けるえべおつWeinの取り組みは、家族3人の思いを乗せて着実に花開いていくことだろう。ぶどうとワインに対して今後も誠実に向き合いたい考えているえべおつWeinのワイン造りに、引き続き注目していこう。

基本情報

名称えべおつWein
所在地〒073-0012
北海道滝川市江部乙町東11丁目758
アクセスhttps://maps.app.goo.gl/rbe3RByx6kKhfPAY8
Facebookhttps://www.facebook.com/ebeotsu.Wein/

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