経営者の想いが強く残された場所『中伊豆ワイナリーシャトーTS』

この体験記は、お酒のあまり強くない、工学博士でありロンドン大学で経営学を学んだ、ある会社社長がワイナリーを訪問した体験を、ちょっと変わった視点で書いています。

今回は、中伊豆にある中伊豆ワイナリーシャトーT.Sさんへ。

2021年7月初旬、雲が厚く、まだ梅雨の明けない蒸し暑いこの時期に、仕事の関係で中伊豆に来ることになった。実験を行う会社が指定してきた宿泊先の一つがホテル ワイナリーヒルズ(https://www.shidax.co.jp/winery/hotel/)。

このホテルはシダックスの創業者である志太社長が始められたところと聞いていて、それ以降、経営者の想いが強く残された場所に興味を持っている私にとって、行きたい場所の一つであった。

ホテルには、プールやテニスコートだけでなく、野球場、フットサルコート、屋内練習場も併設され、ホテル内も和室とベットがある部屋であることから、運動選手などがトレーニングを行うのに適した環境でもあると感じられた。無論、温泉も完備されている。

掘削ドリルの刃を折りながら1億2千年前の地層まで掘り進めて湧き出たナトリウム・カルシウム硫酸温泉が、大浴場にコンコンと注がれている。疲労回復もしてくれるだろうと考えて構成された環境。

大学時代に水泳部であった私は、「当時合宿先としてここを早く知っていたらよかったのに」と思うばかりである。
ワインもリラックスを作り出す一つとして考えていたのかもしれない

翌日の準備も整え、15:50分にホテルから出るマイクロバスに乗り、5分ほど揺られてワイナリーへ。ワイナリー到着前には、約35,000本のブドウ畑が青々と広がっている中を通り過ぎていく。丁度この時期は真緑の山椒の実くらいの大きさのブドウの実が着き始め、畑にいる人たちは一本の木に約10房を残すように手入れをしていた。

曇天とはいえ、気温は28度近く、蒸し暑い中での作業であるが、収穫時の糖度を上げるためには必要な作業であるらしい。ブドウの実が大きくなってからでは手入れが遅くなり、一方で、実がならない状況では、残す房の判断ができない。品質管理のタイミングを見計らっているように感じられた。

ワイナリーでは、約7種類のワイン用のブドウを栽培していて、3種類は実験的な品種の栽培をしていた。畑を見る限り、どの種類をどこに植えているのかを遠くから判別することはできないが、雑草に養分や水分をできる限り吸収させ、ブドウの木へ良い環境を作ろうとしている。

ワイナリーでの説明でも、本来雨が多いこの地ではワインには向かない土地柄であるけれども、創業者の「故郷で何かをしたい」と思う気持ちが、今ある環境での工夫に表れているように思えた。

ワイナリーシャトーSTでの、ツアーに参加もさせてもらい、ガイドの案内で地下室へ。ワインセラーには、創業者が気に入った全ての年代のオーパスワン*1のワインボトルが並んでいる。

(*1:オーパスワン:アメリカ ナパバレーの高級ワイナリーの一つ)

「ワイン好きになると、ここまで凝るのか?」と思いながら、さらに見ると別の棚には2本ロマネコンティが置いてあるという。資産的な価値もあるのかもしれないが、一つのトップの指標を知っておくという点では、この会社の最上級の目標を示すものが示されているともいえる。

経営的にそれを意識しているかはわからないが、現物を目の前にして、ガイドの方の説明を来ていると、そのように感じた。

その奥には1860~1870年代のワインが8本鎮座している。1970年代以降、フランスで、ブドウの木がフィロキセラという木の根に着く病気により全滅に近くなるということがあった。これらのワインは、この全滅の前に取れたワインとのこと。

その後フランスでは、アメリカから大量にブドウの台木などを輸入して復活を遂げたのである。しかし、原点回帰からすると、その8本は当時のブドウの木の状態を残す貴重なものとなっている。

ここにも何か経営思想が影響したのではと考えさせられる。社長の自己満足の有ったのかもしれないが、この購入の決断は一つの経営者の考えの表れのように感じ取れ、市場の価値意外に、“オリジナリティーを知り、考える必要性”を感じ取ることができた。

醸造も、温度管理のされた5,000Lのタンクが8本「ど~んと」鎮座するガラス張りの部屋で行われ、ボトル詰めも全自動で1時間当たり700本可能な設備が整っている。

最後のラベル貼りだけは、品質確認も含めて人の手を借りているそうだ。これだけの生産能力があるため、中伊豆だけではなく、長野や山梨からブドウを仕入れてワインの生産をしている。

テロワールの視点からだと、「現地だけで作ってほしい」と思う気持ちがあるが、経営視点で見れば、ワイナリーも利益を上げなければその継続は不可能であり、初期投資がかさむビジネスである。
このことを考えると、ブドウの栽培を生業としているところとの連携は不可欠であると理解できる。

醸造工場を抜けるとワイナリーが広がる景色を見ることができる。少し薄暗い工場の中から明るいところへと通じるため、「目の前180度ワイン畑!」という開放感を感じることができる。

ワイナリーのテラスにあまり説明をされない圧搾機が何となく置かれている。隣には、破砕工程で使われていたような大きな樽が置かれている。ワイナリーでの昔のワイン造りを感じさせる道具が置かれていることに、先ほどの近代化された醸造工程との技術の進歩を感じる。

ここに目が行くのは、モノづくりをしている経営者であるからかもしれないが、圧搾機のねじ部や圧力を生成する機構とブドウ畑のコントラストがとても身近に感じてくる。
Engineering(エンジニアリング)とBrewing(醸造)とNurturing(育成)が一体化しているように見えるからである。

最後にワインの無料試飲をさせてもらった。このところコロナ禍でワインの試飲をしているところは少なかったが、人の流れとグラスの管理を行い、再開されていた。

個人的には、甘口が好きなので、白ワインのお替りをお願いしてしまったが、快く対応してくれた。有料の試飲もあった。今回このワイナリーで一番価格の高いワインの試飲を200円でさせてもらった。渋みが控えめであるが、コクが豊富で、ホテルで食後にゆっくり飲むワインとして購入する候補となった。

このワイナリー、結婚式場やロケ地としても良く使われているようである。調べてみると、2006年深田恭子が主演の富豪刑事の第二話でも使われていた。
また、近隣は「逃げ恥」でも使われた場所も多くあるようで、ロケ地巡りの人も多く来るらしい。地域活性化の一つとしては、環境を整えてロケ地となることで、不思議な親近感を生むことができるようである。

次回ここに来るときには、ワインに併せて、休暇としてテニスと乗馬も目的に来たいと思う、1時間半の旅であった。


Engineering Dr.& 経営者のワイナリー訪問体験記


今回訪問したワイナリー
静岡県伊豆市にある中伊豆ワイナリーシャトーT.S

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